共感マップの書き方|6要素とBtoB記入例

この記事は、ネクストイノベーションベース編集部の鳥居 誉定が書きました。

会議では「顧客は業務を楽にしたい」「管理職は効率を重視します」といった声が出ます。こんな付箋が並んでも、誰の、どの業務で、何が起きているかは分かりません。形容詞が増えても、顧客像は具体的にならないからです。

共感マップは、特定の顧客が一つの場面で見聞きし、考え、語り、行動する内容を、痛みと得たい状態まで含めて1枚に整理する作業物です。6要素を埋めることより、事実と仮説を分け、次に確かめる問いと判断者を決めるために使います。

完成図を飾るための資料ではありません。確認できた材料と未確認の推測を同じ画面で見分け、次に誰へ何を聞き、その結果をどの会議で判断するかまで決めます。この記事では6要素、4つの根拠ラベル、7段階の作り方、BtoBの架空例を扱います。

共感マップを何のために使うか

共感マップの役割は、顧客を理解したと宣言することではなく、顧客理解の根拠と不足をチームで見えるようにすることです。この記事では、一人の顧客と一つの場面に焦点を当て、外から確認できる言動と内面についての仮説を1枚へ並べます。

たとえば「導入担当者は効率化を求めている」とだけ書くと、実際に観察した行動なのか、本人の発言なのか、営業担当者の推測なのかが分かりません。共感マップ上で出所を分ければ、確認済みの内容と次に調べる内容を同時に扱えます。

ペルソナのように対象者の条件を広く整理する資料とも、複数の接点を時系列で追う資料とも用途が異なります。ここでの共感マップは、特定の役割が特定の仕事を進める一場面を切り取り、未確認仮説と次の質問を残すための作業物です。

「顧客の声を集めた」「担当者全員が納得した」は終了条件になりません。どの記述を事実として残し、どの記述を仮説として検証へ回すかが決まって初めて、共感マップが次の行動に接続します。

共感マップの6要素と書く内容

顧客が接する情報、内面、言動、妨げ、望む結果を見落とさないため、共感マップを6要素に分けます。6要素版は、BtoB新規事業の検証会議で使う記入欄です。

6要素

書く内容

確認に使う問い

見ているもの(See)

画面、資料、設備、他者の動き、比較対象

その場で目に入る情報は何か

聞いていること(Hear)

上司、同僚、顧客、取引先から受ける発言や指示

誰から何を言われ、判断に影響したか

考えている・感じていること(Think & Feel)

期待、不安、迷い、優先順位。ただし本人報告か仮説かを明記

何を気にし、何を避けたいのか

言っている・行動していること(Say & Do)

実際の発言、調べ方、相談先、代替手段、先送り

直近の出来事で何を言い、何をしたか

痛み(Pain)

目的達成を妨げる手間、損失、制約、判断できない状態

どこで止まり、何を諦めたか

得たい状態(Gain)

終えたい仕事、得たい結果、納得できる判断条件

何がそろえば前へ進めるか

「見ているもの」は本人の視界へ入る具体物、「聞いていること」は判断へ影響した発言と発言者まで書きます。「市場環境が厳しい」「導入を急げ」と要約せず、画面、資料、設備、期限を伴う指示へ戻します。

内面は観察だけでは確定しにくい内容です。「不安に違いない」と書いた時点では仮説です。感情語だけで終えず、「効果を数値で説明できないまま稟議へ出すことへの不安」のように対象を示します。本人が語った内容と、チームが推測した内容も分けます。

発言と行動の食い違いは消しません。「管理を一元化したい」と話しながら個別ファイルをメールで集めているなら、そのずれ自体が材料です。行動は「情報収集に積極的」ではなく、「比較資料を開く」「取引先へ連絡する」と動詞で残します。

痛みは目的達成を妨げる状態、得たい状態は顧客が終えたい仕事で書きます。「ダッシュボードがない/欲しい」では、機能案に寄りすぎた表現です。「異常箇所を確認し、再点検の優先順位を決められる」なら、複数の解決策を比較できます。

書き始める前に決めること

作成前に固定するのは、「誰が、どの場面で、何を終えようとしているか」です。対象や場面が広いままでは、利用者、導入担当者、情報システム部門、決裁者の事情が混ざり、検証できない平均像になります。

会議前に、次の四つを1行ずつ決めます。

  • 対象の役割:業界や年代だけでなく、利用者、導入推進者、承認者、購買担当者など意思決定上の役割を書く
  • 具体的な場面:「業務全般」ではなく、開始と終了が分かる一場面に絞る
  • 達成したい仕事:製品を使うことではなく、「原因を説明し、対策予算の承認を得る」のように顧客側の仕事で書く
  • 使う材料:インタビュー記録、行動観察、商談記録、問い合わせ、画面操作ログなど、出所を確認できる資料を決める

BtoBでは、一つの購買に複数の役割が関わります。利用者の操作負担、導入推進者の社内調整、情報システム部門の審査、決裁者の投資判断は別の論点です。同じ企業に属していても役割ごとにマップを分け、必要なら後で並べて比較します。

各メモには、次の4つの根拠ラベルを付けます。

  • [確認済み事実]:資料、行動記録、画面、契約条件などで確認した内容
  • [本人報告]:対象者が話した経験、認識、感情。発言した事実と、内容が客観的に正しいことは分ける
  • [解釈]:確認済み材料からチームが読み取った意味
  • [仮説]:まだ証拠がなく、次に確かめる内容

チーム全員が同意しても、仮説は事実へ変わりません。会議中に意見が強く支持されたかではなく、どの材料から書いたかでラベルを決めます。

共感マップの作り方

共感マップは、確認しやすい外側の情報から書き、解釈を分け、矛盾と空欄を検証課題へ変えます。

  1. 作成後の意思決定を一文にする:「顧客を理解する」ではなく、残す、変える、保留する事業仮説を書く。
  2. 対象の役割と場面を固定する:役割、場面、達成したい仕事を上部に置き、複数人物は別のマップへ分ける。
  3. 材料を個人で書き出す:手元資料から先にメモを作り、出所と取得日を付ける。
  4. 外から確認しやすい内容を配置する:見る、聞く、言う、行動する内容を先に置き、食い違いも残す。
  5. 内面、痛み、得たい状態を補う:本人報告と解釈を分け、根拠のない内容は[仮説]にします。
  6. 重複はまとめ、矛盾は並べる:反対の材料が出た条件を、次の確認事項へ変えます。
  7. 次の検証へ変換する:事業判断への影響が大きく、証拠の弱い仮説を選び、相手、質問、方法、担当、期限を書く。

会議を終えてよいのは、付箋が埋まったときではありません。次に確かめる仮説、確認方法、担当、期限と、その結果を判断する人または会議体が決まったときです。

BtoB新規事業の共感マップ記入例

BtoBの共感マップは、購買企業という抽象的な単位ではなく、特定の役割が具体的な仕事を進める一場面で作ります。以下は書き方を説明するための架空例です。

対象は「製造業の設備保全責任者」です。場面は「設備の突発停止後、再発防止策と予算を社内提案する」です。達成したい仕事は「停止原因と対策を説明し、関係部署から実施承認を得る」と設定します。

6要素

記入例

ラベル

見ているもの

紙の点検表、設備ごとに分かれた表計算ファイル、過去の停止履歴、前回の稟議書

[仮説]

聞いていること

工場長から再発防止策を求められる。現場担当者から入力負担を訴えられる。情報システム部門から審査条件を示される

[仮説]

考えている・感じていること

原因を断定できないまま提案すると説明責任を果たせない。現場の作業を増やす案は定着しにくい

[仮説]

言っている・行動していること

過去資料を集める。関係部署へ聞く。複数の提案を比べる。暫定対策を先に実施する

[仮説]

痛み

記録の形式がそろわず原因を比較しにくい。対策を判断する材料が足りない。審査条件を後から知る

[仮説]

得たい状態

異常と対策の履歴を追え、再発リスクと費用を同じ資料で説明し、承認者が判断できる

[仮説]

この例で最も大切なのは、6欄の中身ではなく、全項目が[仮説]だと明示されている点です。もっともらしい文章でも、顧客の事実ではありません。営業担当者の印象やチームの経験を追記する場合も、出所とラベルを変えません。

役割を「現場担当者」へ変えるなら、入力負担や作業中断を仮説として置きます。情報システム部門なら、連携方法、権限、保守、審査を別の仮説として置きます。一枚へ平均せず、役割別のマップを並べて比べます。

顧客インタビューと事業判断へつなぐ

共感マップから選ぶのは、事業判断への影響が大きいのに根拠が弱い仮説です。6欄を順番に読み上げるのではなく、顧客が実際に取った行動と判断を、過去の具体的な出来事に沿って確かめます。

たとえば[仮説]に「対策効果を説明できず不安」と書いたとします。「効果説明に不安がありますか」と聞くのは、こちらの答えを含む質問です。代わりに、次のように変換します。

直近で新しい設備やシステムを社内提案した場面を教えてください。最初に誰へ何を説明し、どんな資料を出しましたか。途中で追加を求められた情報は何でしたか。

回答は「仮説を支持した」「反証した」「まだ確認できない」に分けます。反証は削除対象ではありません。対象者の条件や場面を見直す材料として残します。

共感マップだけで需要の強さ、支払意思、市場規模、導入決裁の条件まで証明したことにしません。痛みが書けても、事業機会が確定したわけではありません。必要な証拠に合わせ、インタビュー、行動観察、試作品の提示、販売検証へ分けます。

インタビュー後は、次の7項目を最小成果物として残し、既存の決裁フローへ渡します。

  • 対象とした顧客・課題・価値提案の仮説
  • 確認できた事実と反証
  • まだ確認できない事項
  • 顧客・課題・価値提案の仮説への影響
  • 継続・変更・保留の判断
  • 判断者または判断する会議体
  • 次の責任者と期限

初稿は上書きして消さず、作成日と変更理由を記録します。「誰の発言で何が変わったか」を追える状態にすれば、都合のよい回答だけを残す編集にも気づきやすくなります。

共感マップが機能しない書き方

共感マップが機能しにくいのは、顧客の事実とチームの想像を混ぜ、複数の役割や場面を一枚へ押し込んだときです。見栄えより、根拠、対象、次の検証が追えるかを確認します。

よくある詰まり方は、次の五つです。

  • 人物評で埋める:「忙しい」「保守的」を、実際の作業や審査行動へ戻す。評価語のままでは質問を作れない
  • 利用者と決裁者を混ぜる:操作負担、社内調整、投資判断は別の役割に属する。企業が同じでもマップを分ける
  • 機能名を書く:「ダッシュボードが欲しい」ではなく、顧客が終えたい仕事と現在止まる箇所を書く
  • 矛盾を多数決で消す:「すぐ試したい」と「審査前は触れない」が並んだら、発言者や導入段階の差を確かめる
  • 空欄を想像で埋める:空欄は調査不足の表示です。仮説にはラベルを付け、取得日、対象者、更新理由を残す

作成後は、対象が一人の役割と一つの場面に絞られているか、全メモに出所とラベルがあるか、内面を事実として断定していないかを確認します。次に聞く相手、質問、方法、担当、期限、判断者まで決まっていなければ、会議を終える前に不足を記録します。

まとめ|共感マップを検証の起点にする

共感マップは、顧客を理解したと示す完成資料ではなく、確認できた事実と未確認の仮説を見分け、次の顧客調査と事業判断を決める作業物です。対象と場面を絞り、根拠ラベルを付け、矛盾と空欄を残します。

この記事では、見る、聞く、考える・感じる、言う・行動する、痛み、得たい状態の6要素で整理しました。BtoBでは利用者、導入推進者、承認者、購買担当者を平均しません。役割ごとに分けたマップから、次に確かめる仮説、相手、質問、担当、期限、判断者を決めます。

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