カスタマージャーニーとは|作り方とBtoBでの活用法

この記事は、ネクストイノベーションベース編集部の鳥居 誉定が書きました。

会議室の壁に、きれいな横長のカスタマージャーニーマップが完成しました。「認知」「比較」「購入」と段階を並べ、感情の波も描いてあります。ところが、どの欄が顧客の実際の行動で、どこからが社内の想像なのかを尋ねると、誰も答えられません。

カスタマージャーニーとは、顧客が目的へ進む過程で経験する行動、接点、判断の連続です。マップが役立つのは、顧客の行動を時系列で再現し、事業側の思い込みと未確認部分を見えるようにしたときです。

この記事では、カスタマージャーニーマップに入れる項目、作り方、BtoBで複数の関係者を扱う方法、顧客インタビューによる確認、事業機会の見つけ方、更新方法を解説します。

カスタマージャーニーとは何か

企業側が売りたい順番と、顧客が目的へ進む順番は一致しません。商品を知る前から課題への対処は始まり、購入後も導入、利用、更新の判断が続きます。

カスタマージャーニーは、顧客が目的へ進む途中で経験する行動、接点、判断の連続です。カスタマージャーニーマップは、その過程を時系列で可視化したものです。Nielsen Norman GroupのKate Kaplanは2016年の解説で、利用者の目的と行動を時系列に並べ、思考と感情を加えて可視化する方法として説明しています。

開始点は必ずしも「商品を知る」ではなく、終了点も購入とは限りません。BtoBなら、課題の発生から社内相談、比較、契約、導入、更新判断まで続く場合があります。今回の事業判断に合わせて範囲を切ってください。

ファネル・ペルソナ・業務フローとの使い分け

手法

主に捉えるもの

答えたい問い

カスタマージャーニーマップ

顧客側の行動、判断、接点の変化

顧客は目的へ進む途中で何を経験しているか

マーケティングファネル

事業側が観測する段階別の人数や反応

どの段階で反応が減り、次へ進まなくなるか

ペルソナ

対象顧客の状況、役割、行動特性

誰の、どの状況を対象にするか

業務フロー

社内外の作業、担当、受け渡し

誰がどの作業を実行するか

ファネルで反応が減る段階は見えても、顧客が止まった理由までは確定しません。カスタマージャーニーマップは、その段階の行動、関与者、判断材料を調べるために使います。

カスタマージャーニーマップに入れる項目

横軸へ「認知・興味・比較・購入」を置くと、事業側の販売工程が主役になります。顧客の動詞で区切ってください。「異常に気づく」「同僚へ相談する」「代替手段を試す」「社内審査を通す」と並べると、実際の行動を置きやすくなります。

縦軸には、行動、接点、思考、感情、障壁、根拠の6項目を置きます。

項目

記載する内容

書き方の例

行動

顧客が実際に行ったこと

検索した、同僚へ聞いた、資料を保存した、試用した

接点

人、媒体、製品との接触

検索結果、営業担当、比較表、試用画面、社内会議

思考

その時点で答えを探している問い

自社でも使えるか、誰の承認が必要か、移行負担は何か

感情

行動に伴う安心、迷い、抵抗

面倒、判断材料が足りない、失敗を避けたい

障壁

次の行動を止める条件

情報不足、権限不足、予算時期、既存運用との不一致

根拠

記載内容を支える記録

顧客発言、行動観察、問い合わせ、失注理由、利用記録

事業側の施策、担当、次の検証は別の運用欄へ置きます。感情を書くなら「比較で不安」と想像するのではなく、「権限設定の違いを説明できず、情報システム部門へ確認を依頼した」のように、根拠となる行動を添えてください。

カスタマージャーニーマップの作り方

空欄を想像で埋めると、完成度は上がって見えます。しかし、そのマップから正しい質問は生まれません。確認済みの事実を先に並べ、仮説と未確認部分を分けます。

  1. 用途を決める:「顧客理解を深める」ではなく、インタビューの質問範囲、試作品で扱う場面、離脱理由など、作成後に決めたいことを一文にする
  2. 対象顧客を状況まで絞る:「業務システムを探す企業」ではなく、「部門間の受け渡しが増え、管理者が代替手段を探し始めた状態」まで定める
  3. 開始点と終了点を置く:新規獲得なら課題発生から契約、利用定着なら初回利用から更新判断までと、対象を一つの意思決定へ収める
  4. 行動を時系列に並べる:インタビュー、問い合わせ、営業記録、試用、更新・解約の記録から、「誰に聞いた」「何を比べた」と顧客の動詞を抜き出す
  5. 事実・仮説・未確認を表示する:確認済みの行動へ根拠を付け、担当者の推測は「仮説」、材料がない欄は「未確認」と示す
  6. 停滞を顧客の問いへ戻す:「価格ページを改善する」ではなく、「利用部門は費用を誰に説明し、何と比べているかが未確認」と書く
  7. 次の検証を割り当てる:各仮説へ、確認方法、対象者、担当者、見直す時点を付ける

完成条件は、図が埋まることではありません。確認済みの事実、事業側の仮説、未確認部分が分かれ、次に誰へ何を聞くかが決まっていることです。

BtoBのカスタマージャーニーは役割ごとに分ける

BtoBの購買を、一人の担当者が認知から契約まで進む線で描くと、導入を止める人が消えます。利用者、課題責任者、決裁者、情報システム、購買などは、それぞれ別の問いと判断条件を持つからです。

以下は、業務管理SaaSを検討する企業を想定した架空例です。

段階

主な役割

行動

顧客の問い・障壁

根拠の状態

課題が表面化する

利用者

手作業の修正を行い、上司へ相談する

どの工程で負担が増えたのか

仮説。直近の出来事を聞く

候補を探す

課題責任者

同僚へ聞き、既存手段と新しい候補を比べる

現行運用の変更に見合うか

比較時の資料と行動を確認する

試用・稟議

利用者・決裁者

試用し、社内説明用の情報をまとめる

費用、移行負担、期待する変化を説明できるか

試用記録と稟議の差し戻しを確認する

審査・契約

情報システム・購買

要件と契約条件を確認する

管理・取引条件を満たせるか

質問票と修正依頼を確認する

導入・更新

運用管理者・利用者

初期設定、社内案内、利用状況の確認を行う

運用を続ける価値と負担は何か

利用記録、問い合わせ、更新理由を確認する

実際のマップには、調査で登場した役割だけを置きます。情報の受け渡しで止まった場合も、原因を決裁だけに決めつけません。製品機能、審査要件、説明資料の不足を、関係者への確認で切り分けてください。

カスタマージャーニーを顧客インタビューで確かめる

「このサービスを使いたいですか」と聞けば、未来の希望は集まります。しかし、顧客が実際に何をしたかは分かりません。直近に起きた一つの出来事を、開始から終了まで再現します。

Rob Fitzpatrickの『The Mom Test』(2013年)は、将来の意向ではなく、過去の具体的な行動を聞く原則を示しています。Nielsen Norman GroupのJakob Nielsenも2001年の論考で、自己申告と実際の行動を分けて扱う必要を指摘しました。

インタビューでは、次の順で尋ねます。

  • その課題が最後に起きたのはいつか
  • 何が起き、最初に何をしたか
  • 誰に相談し、相手から何を求められたか
  • どの代替手段や候補を比べたか
  • 時間、費用、手間を何に費やしたか
  • どの情報で進み、どこで止まったか

「比較した」という回答が出たら、何と何を、誰が、どの資料で比べたかまで聞きます。当時の画面、資料、メールを見せてもらえるなら、会議と関係者を順にたどってください。確認できない部分は仮説のまま残します。

Guestら(2006年)は、西アフリカ2カ国の女性60人へのインタビューを分析し、主要テーマが最初の12件までにほぼ出そろったと報告しました。一人の発言を普遍化せず、同じ対象条件で複数の出来事を突き合わせるための参考として扱います。

カスタマージャーニーマップから事業機会を見つける

顧客が同じ説明を別の相手へやり直していたり、判断材料がそろわず保留していたり、複数の道具を手作業でつないでいたりします。こうした場面には、顧客が目的へ進むために費やす時間、費用、調整と、それでも残る負担が表れます。

事業機会の候補は、発生頻度、仕事や判断への影響、現在の対処、未解消の理由、当事者へ会えるか、大きな開発前に試せるかで比べます。感情の強さだけで選ばず、行動と投入された負担を確かめてください。

「比較表を追加すれば契約が増える」と施策へ飛ばないことも大切です。「推進担当者は審査部門へ渡す情報を作り直しているか」と、確かめられる仮説に変えます。顧客が実際にやり直しているなら、その負担を減らす小さな試行を設計します。

カスタマージャーニーマップの形骸化を防ぐ

一度作ったマップが共有フォルダに置かれたまま、新しい顧客事実が入りません。半年後も同じ感情曲線を使っています。形骸化は、顧客の出来事より自社施策を中心に描き、更新の引き金を決めていないときに起きます。

形骸化する書き方

起きる問題

直し方

広告、営業、CSを段階名にする

社内の担当区分が中心になり、顧客行動が見えない

顧客の動詞で段階を書き直し、担当部署は運用欄へ移す

感情曲線を会議参加者だけで描く

推測が顧客事実として流通する

根拠を付け、未確認の感情は仮説と表示する

一人のペルソナへ全関係者を混ぜる

BtoBの決裁、審査、運用条件が消える

役割別に分け、情報の受け渡し箇所をつなぐ

接点を増やす案だけを並べる

顧客の問いが解けず、施策だけ増える

各接点で顧客が答えを探す問いを1つ書く

一度作って保管する

新しい顧客事実が反映されない

更新の引き金、担当者、判断へ使う会議を決める

失注理由が価格ではなく審査資料の不足だと分かったら、障壁を書き換えます。顧客インタビューで新しい関与者が見つかったら、役割を追加してください。変更履歴には、更新日、得られた事実、根拠、変えた仮説、次の検証を残します。

すべての欄を埋める必要はありません。分からない箇所には「誰に何を聞くか」を書きます。未確認部分が見えるマップのほうが、完成したように見えるマップより次の調査へつながります。

まとめ|カスタマージャーニーは次の検証を決めて完成する

カスタマージャーニーマップは、顧客側の行動、接点、思考、感情、障壁、根拠を時系列で置きます。企業側の施策を先に並べず、用途、対象顧客、開始点と終了点を固定してください。

BtoBでは、利用者、課題責任者、決裁者、審査部門などを役割別に分けます。顧客インタビューでは未来の希望より、直近の出来事と過去の行動を聞きます。

完成条件は、きれいな図ができることではありません。確認済みの顧客事実、事業側の仮説、未確認部分を分け、次に誰へ何を確かめるかが決まることです。新しい事実が得られた箇所だけを更新し、カスタマージャーニーを次の判断へ使い続けます。

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