ユーザーインタビューの人数は何人?「5人で85%」の誤解と決め方

この記事は、ネクストイノベーションベース編集部の鳥居 誉定が書きました。

調査計画を説明すると、「結局、ユーザーインタビューは何人に聞けば足りるのか」と問われます。予算と日程を決める以上、人数欄は埋めたいところです。ところが総数を先に置くと、実施後に役割や募集経路の偏りへ気づきます。人数はそろったのに、判断材料が足りません。

ユーザーインタビューの人数に、全テーマ共通の正解はありません。調査後に何を決め、誰を比較し、何が分かれば止めるのかを定めます。この3点から、対象者条件ごとの仮枠を置きます。

この記事では、「5人で85%」の出典と適用範囲を確認し、探索・評価・推定の違い、BtoBでの対象者区分、人数の追加・変更・終了を判断する方法を解説します。

ユーザーインタビューの人数は目的と終了条件で決める

ユーザーインタビューの人数は、「何を決めるか」「誰を比べるか」「何が分かれば止めるか」を定めた結果です。総人数を計画の出発点にはしません。

課題を探す調査と、試作品の使いにくさを見つける評価では、同じ1対1の調査でも得る証拠が違います。前者では困った場面や代替手段を聞き、後者では同じ試作品を操作したときの迷いや未完了を観察します。

人数を書く前に、次の3点を決めてください。

  • 調査後の意思決定:対象顧客を残すのか、課題仮説を変えるのか、試作品の評価へ進むのか
  • 比較する対象者条件:どの役割・経験・利用状況を同じ条件として扱い、何を分けて見るのか
  • 終了条件:同じ条件の相手から、判断を変える新しい行動、反例、制約が増えなくなったと何で判定するのか

利用者5人と、利用者3人・決裁者2人は、同じ5人でも答えられる問いが違います。人数の妥当性は、総数ではなく、対象者条件と終了条件を第三者が追えるかで判断します。

ユーザーインタビューの「5人で85%」は何を示すのか

「5人」は、同じ評価対象にあるユーザビリティ上の問題を見つけるための目安です。探索型ユーザーインタビューの推奨人数ではありません。

Jakob Nielsenは2000年に、5人のユーザビリティテストに関する論考を公開しました。参加者を増やしたとき、問題の累積発見率がどう変わるかを扱っています。

モデルの式は、N × {1 − (1 − L)^n}です。Nは評価対象にある問題の総数、Lは1人の参加者が問題を発見する割合、nは参加者数を表します。割合だけを見る場合は、1 − (1 − L)^nです。

同記事はLの代表値を31%としています。nを5人とすると、1 − (1 − 0.31)^5 = 0.843596…となり、84.36%です。記事中では近似して85%と示されています。

ここで分けたいのは、次の3点です。

  • 5人で見つける対象:同じ評価対象にあるユーザビリティ上の問題
  • 85%が表すもの:前提を置いた問題発見モデル上の割合
  • 表さないもの:市場で課題を持つ人の割合、購入意向、売上見込み、探索型インタビューの飽和

画面や試作品の操作上の問題を探すなら、このモデルを参照できます。誰のどんな課題を解くべきかを探索する段階へ、そのまま転用はできません。

ユーザーインタビューの人数は探索・評価・推定で変わる

人数の考え方は、未知の論点を探す「探索」、操作上の問題を見つける「評価」、母集団の割合を測る「推定」で変わります。手法名より、調査後の判断で分けます。

課題や行動の背景を探索する

探索型では、対象者条件ごとに新しい判断材料が増えているかを見ます。起きた出来事、代替手段、例外、未確認の論点を記録し、仮説を維持・修正する材料が増えたかで追加を判断します。

試作品の使いにくさを評価する

ユーザビリティテストでは、同じタスクを実行してもらい、迷い、誤操作、未完了を観察します。Nielsenの「5人」はこの文脈です。評価対象と参加者条件をそろえ、修正後にもう一度試します。

市場での発生割合を推定する

「課題を持つ企業は何%か」を知りたい場合、少人数の定性インタビューでは答えられません。母集団、対象者の抽出方法、許容誤差を定めた定量調査が必要です。インタビュー参加者の賛否を市場比率へ置き換えないでください。

BtoBのユーザーインタビュー人数は役割と経験で分ける

BtoBでは、利用者・導入推進者・決裁者を一つの総人数に合算しません。役割が違えば、同じサービスについて語れる事実が変わります。

利用者は作業の手間や例外処理を知っています。導入推進者が語れるのは代替案と社内調整、決裁者が見るのは投資判断の条件です。利用者だけに会って「導入ニーズがある」と結論づけても、購買側の条件は未確認のままです。

対象者条件は肩書だけでなく、経験した行動まで書きます。

  • 役割:使う人、導入を進める人、承認する人、導入を止め得る人
  • 経験:課題を経験した、代替手段を試した、導入した、見送った、利用をやめた
  • 状況:対象業務の頻度、意思決定の流れ、現在の解決方法

すべての組み合わせを埋める必要はありません。今回の意思決定を変え得る条件から着手します。ただし、一人の発言をその役割全体の傾向とは扱わず、必要なら追加募集、別資料での確認、結論の適用範囲の限定を選びます。

ユーザーインタビューの人数を決める5つの手順

人数計画は、仮枠を置いて終わりではありません。各回の結果を見て、追加、対象者条件の変更、終了を選ぶ運用計画です。

1.調査後の意思決定を書く

「顧客理解を深める」では、終了条件を作れません。「対象業務で起きる手戻りを確認し、次に試作する支援範囲を決める」のように、調査後に選ぶ行動を書きます。

2.対象者条件を比較単位へ分ける

役割、経験、現在の解決方法から、同じ論点を比較できるまとまりを作ります。人数欄は全体で一つにせず、条件ごとに分けます。

3.仮の実施枠と見直し時点を置く

予算化には仮枠が要ります。ただし、その数字を必要人数とは呼びません。対象者条件ごとの初回枠と上限、見直す時点、追加分の判断者を記録します。

4.各回の終了直後に増分を記録する

残すのは感想ではなく、仮説と整合した行動事実、反例、前回までになかった論点、未確認事項です。質問を変えた場合は、変更理由と使った版も残します。

5.追加・条件変更・終了を選ぶ

新しい論点が出ているなら、同じ条件で追加します。別の役割にしか答えられない未確認事項が出たら、総数を増やすのではなく対象者条件を変えます。新しい材料が増えず、反例も探し、残る不確実性を説明できるなら、終了を検討する段階です。

ユーザーインタビュー人数を稟議へ移す記入例

人数計画を稟議や発注に使うなら、初回枠だけでなく、見直し時点、追加上限、担当範囲、受入成果物を同じ計画に置きます。以下は、架空のBtoB業務支援ツールを調べる例です。

計画シートに置く項目

調査後に決めるのは、「承認申請業務のどこまでを試作するか」です。対象者条件を、手戻りを経験した利用者、改善案を比較した導入推進者、導入可否を判断した決裁者に分けます。

  • 利用者:初回枠3人、上限5人
  • 導入推進者:初回枠2人、上限3人
  • 決裁者:初回枠1人、上限2人
  • 日程:第1週に募集、第2週から実施、第3週末に初回判定
  • 予算:初回6人分を承認。追加は合計5人分まで、判定会議で判断
  • 受入成果物:対象者条件一覧、各回の記録、反例と未確認事項、追加・変更・終了の判定メモ

説明用の仮想計画

利用者から新しい例外が増えていれば、利用者の枠内で追加します。情報システム部門にしか答えられない審査条件が現れたら、利用者を増やさず対象者条件を変えます。

決裁者に一人しか会えない場合、その発言を傾向とは扱いません。単一事例として不確実性を残し、承認資料など別の証拠で確かめます。稟議に書くのは「何人終えたか」ではなく、なぜ追加・条件変更・終了を選んだかです。

ユーザーインタビューの人数を飽和で見極める

インタビューの飽和とは、同じ対象者条件と論点で聞いたとき、意思決定に関わる新しいテーマが増えなくなる状態です。回答の言葉が似たことや、賛成意見が続いたことだけでは飽和と判定しません。

同質性の高い対象者を対象にした研究では、主要なテーマは12件目のインタビューまでにほぼ出そろったと報告されています(出典:Guest ほか 2006年)。

ただし、12人をすべての調査に共通する推奨人数にはできません。対象者の同質性と、分析する問いによって飽和の時点は変わります。

追加したほうがよい状態

追加するのは、新しい行動や制約が出る、経験によって回答が割れる、見送った人の理由がないときです。同じ紹介経路に偏る、利用者へ購買判断を聞く、未来の意向ばかり尋ねる場合は、人数ではなく募集条件や質問を変えます。

人数を増やす前に条件を変える状態

同じ属性の相手を増やしても答えられない問いが残るなら、人数ではなく対象者条件を変えます。導入審査の論点を利用者へ尋ね続けるのではなく、その判断を担う部門へ対象を移します。

終了を検討できる状態

新しいテーマが増えず、反対事例も探し、次の意思決定に必要な論点が埋まったら終了を検討します。終了は事業の正しさを証明した状態ではありません。この調査で扱う定性材料が、次の判断に足りた状態です。

ユーザーインタビュー人数のよくある質問

Q. ユーザーインタビューは最低何人必要ですか?

A. 探索型インタビューに共通の最低人数はありません。対象者条件ごとに仮枠を置き、各回の終了後に行動事実、反例、未確認事項を記録して追加を決めます。

Q. BtoBでは利用者と決裁者を同じ人数にすべきですか?

A. 同数にそろえる必要はありません。操作上の課題を探すなら利用者、導入条件を確かめるなら推進者や決裁者というように、不足している事実で配分します。

Q. 5人全員が同じ課題を挙げたら終了できますか?

A. 一致だけでは終了できません。紹介経路や経験が偏っていないか、反対事例を探したか、課題が行動でも確認できたかを点検します。発生割合を知りたい場合は定量調査へ切り替えます。

まとめ|ユーザーインタビューの人数より止める根拠を決める

ユーザーインタビューの人数は、調査目的、対象者条件、終了条件から決めます。5人はユーザビリティテストの問題発見モデルで使われる人数であり、85%はモデル上の累積値です。顧客ニーズの把握率ではありません。

役割や経験が違う対象者を一つの総数にまとめず、各回で増えた事実、反例、新しい論点、未確認事項を残してください。材料が増えるなら追加し、別の役割に聞くべきなら条件を変えます。残る不確実性を説明できる状態になったら、終了を検討します。

無料相談を申し込む