文字起こしを読み、気になる箇所へ色を付け、似た発言をまとめました。それでも会議で「誰の何が課題なのか」「この機能を作る根拠になるのか」と問われると、答えが止まります。インタビュー分析が発言整理で終わっている状態です。
インタビュー分析とは、発話を事業判断に使える根拠、反証、未確認事項へ変える工程です。言葉だけを抜き出さず、発言が生まれた状況、実際の行動、質問の仕方、反対事例を読み合わせます。
この記事では、録音・文字起こし・観察メモがそろった後を対象に、発話の分割から示唆と意思決定メモへの変換までを5ステップで解説します。
インタビュー分析とは|文字起こし・要約・示唆を分ける
インタビュー分析では、発話原文、本人が語った出来事、直接確認した事実、分析者の解釈、事業への示唆を分けます。文字起こしは入力、要約は圧縮、示唆は意思決定を変える読みです。
「月末の申請が大変です」という発話だけでは、何が起きたかは確定しません。作業量、承認者の不在、添付ファイルの確認では、確かめる仮説が変わります。観察や業務記録で裏付けるまでは、本人がそう報告した事実として扱います。
層 | 記録する内容 | 答えられる問い |
|---|---|---|
発話原文 | 対象者の言葉と直前の質問 | 何と語ったか |
本人報告 | 語られた場面、行動、関係者、結果 | 本人は何が起きたと認識しているか |
確認した事実 | 画面操作、業務記録、提示資料 | 何を直接確認できたか |
分析者の解釈 | 原因、制約、判断基準の仮説 | なぜ起きた可能性があるか |
事業への示唆 | 維持・修正・保留する仮説と次の確認 | どの判断を変えるか |
この5層は、事業判断へ渡しやすくするための分け方です。発話と解釈を同じ欄へ書かないために使います。
インタビュー分析前の準備|判断する問いを固定する
録音を再生する前に、「分析後に何を決めるか」を一文にします。「顧客理解を深める」では、興味深い発言を集めても終了条件がありません。
短い分析メモに、次の項目を置きます。
- 意思決定:対象顧客を残す、課題仮説を変える、試作品へ進む、追加調査へ戻す、のどれを選ぶか
- 分析する問い:どの場面で現行手段を使い続け、どの条件で切り替えるのか
- 現在の仮説:誰が、いつ、何に困り、どんな代替手段を取っていると見ているか
- 反対事例:仮説が外れたと判断する行動や状況は何か
- 比較単位:利用者・導入推進者・決裁者、導入済み・見送りなど、分けて見る条件は何か
- 読み手と選択肢:誰が、どの選択肢から次の行動を決めるか
記録には対象者ID、質問ID、時刻、発話原文、観察メモを残します。質問文を消すと、誘導の有無を後から点検できません。録音がなく要約だけなら、その条件も明記します。
インタビュー分析のやり方|発話を示唆へ変える5ステップ
インタビュー分析は、①判断する問いの固定、②発話の分割、③コード付与、④対象者間の比較、⑤示唆と次の検証への変換、の順で進めます。どの結論からも元の発話へ戻れる状態を保ちます。
1.分析する問いを意思決定の言葉で書く
「何が分かったか」ではなく、「結果で何を変えるか」を書きます。「経理担当者に需要があるか」では広すぎます。「申請作業のどこで現行手段を変える行動が起きていますか。確認できなければ対象課題を見直します」とすれば、拾う情報と反対事例が見えます。
2.発話を意味の切れ目で分ける
場面、行動、理由、感情、評価が混ざった発話は、意味の切れ目で行を分けます。各行に対象者ID、質問ID、時刻を残してください。
「月末は申請が重なって大変ですが、差し戻しより承認者の不在で止まることが多いです」なら、「月末に申請が集中する」「承認者不在で止まると本人は認識している」を別に記録します。「申請画面が使いにくい」と要約すると、後半の反証が消えます。
3.コードを付け、定義をそろえる
発話を比べるための短いラベルをコードと呼びます。「不満」「ニーズ」ではなく、「承認待ち」「版の照合」「手作業で転記」のように、状況や行動が分かる言葉を使います。
コードごとに、定義、含める発話、含めない発話、代表例を残します。「承認待ち」へ承認者不在、審査中、差し戻し対応をすべて入れると、原因の違いが見えません。意味が違えば分けます。
4.対象者間で共通点・相違点・反対事例を比べる
対象者を行、コードを列に置き、同じ条件で繰り返す出来事と、条件によって分かれる出来事を比べます。発言回数を市場での発生率へ読み替えてはいけません。
共通点より先に反対事例を読みます。利用者には負担でも決裁者には問題ではない、導入済み企業だけに現れる、といった差が、対象顧客や課題仮説を切り直す材料です。
5.示唆を根拠・反証・次の行動と一組で書く
示唆は「ユーザーは効率を求めている」といった大きな結論ではありません。誰が、どの場面で、何をしており、どの前提を変えるのかを一文にします。
「申請担当者は入力時間より承認待ちを長い停滞として挙げました。承認者側の行動と業務記録を追加確認します」と書けば、分かった範囲と次の行動が見えます。一件の強い発話は結論ではなく、次に確かめる仮説です。
インタビュー分析で判断基準を深掘りする
名称の説明より、発話と解釈を混ぜないことが大切です。
架空の会話で、対象者が「承認前に資料を紙へ出して確認する」と話したとします。「なぜ紙が好きなのですか」と価値観を直接聞かず、「最後に印刷した案件は何か」「画面上の確認では何が起きたか」「見落とすと誰へ影響するか」と出来事をたどります。
「古い版を役員へ見せると、確認していないと思われる」と返った場合、行動は印刷、本人が語った結果は「確認していないと思われること」です。「版違いの回避や説明責任を重視している」は分析者の仮説へ置きます。「紙を好む顧客」と一括すると、手段と目的を取り違えます。
理由を言語化できなければ、判断基準は未確認と残します。具体的な行動、本人が語った結果、本人が語った意味、分析者の仮説を別欄に置いてください。
インタビュー分析シートの書き方|発話から示唆までつなぐ
分析シートは、発話IDから示唆までを一行で追える形にします。次は、社内申請サービスを検討する架空例です。
発話は「月末は申請が重なり、添付した版の確認に手間がかかります。ただ、差し戻しより承認者の出張で止まることのほうが多いです」とします。
分析欄 | 記入例 | 扱い |
|---|---|---|
発話ID | P03-Q07-12:18 | 原音へ戻る識別子 |
本人報告 | 月末に申請が集中し、版の確認に手間がかかる。承認者不在で止まることが多い | 業務記録での確認は未了 |
コード | 申請集中/版の照合/承認者不在 | 比較用の状況・行動ラベル |
仮説との関係 | 入力負荷は支持材料。入力だけが主因という見立てには反証 | 支持と反証を同時に残す |
解釈 | 停滞は申請者の作業だけでなく、承認者がつかまるかどうかにも左右される可能性 | 分析者の仮説 |
示唆 | 入力支援だけでなく、承認経路と代理対応も確認対象に加える | 判断の変更案 |
次の確認 | 承認者へのインタビュー、申請ログ、代理承認の運用確認 | 未確認を埋める行動 |
この一件から「企業は代理承認機能を求めている」とは書けません。入力負荷だけを原因とする仮説に反対材料が出て、承認側の確認が必要になった、と書きます。
インタビュー分析で示唆が浅くなる6つの原因
分析資料が厚くても、誰と誰を比べたのか、仮説に合わない事例はあったのか、どこまでが事実でどこからが解釈なのか、その結果どの判断を変えるのかが書かれていなければ、判断には使えません。
- 対象者ごとの議事録で終える:個票を残したうえで、対象者条件とコードの比較を作ります。
- 最初から機能名で分類する:状況と行動で分けてから、解決手段を検討します。
- 発言数を市場比率へ変える:5人中3人の発言を「60%に需要がある」とは扱いません。
- 印象的な一言を示唆と呼ぶ:引用の前後、質問文、同じ行動の別例を確認します。
- 支持材料だけでまとめる:仮説に合わない事例と判断保留から先に読みます。
- 分析者だけで結論を閉じる:意思決定者と選択肢を先に定め、維持・修正・保留を決めます。
インタビュー分析を意思決定へ渡す
分析結果の単位は発言のまとめではなく、「判断、根拠、反証、未確認、次の検証」を一組にした意思決定メモです。
- 今回決めること
- 維持・修正・保留・停止の暫定判断
- 対象者が語った出来事と発話ID
- 観察や業務記録で確認した事実
- 暫定判断と合わない事例
- インタビューだけでは答えられない未確認事項
- 誰に、何を、どう確かめるか
- どんな結果が出たら判断を変えるか
分析会議では、引用集より暫定判断と反証を先に読みます。意見が割れたら平均を取らず、割れた理由を未確認事項へ移してください。仮説を変えない理由が発話IDまで追え、変える場合は次の責任者と期限が決まっています。その状態まで渡します。
まとめ|インタビュー分析は次の検証まで決める
インタビュー分析は、発話を分類して終える作業ではありません。どの事実が、どの事業判断を変えるかを明らかにする工程です。
判断する問いを固定し、発話を意味の切れ目で分け、コードを付け、対象者間で比較し、示唆と次の検証へ変えます。元の質問と発話を残し、本人報告、確認した事実、分析者の解釈を混ぜないことが基本です。
完成した分析には、支持材料だけでなく反証と未確認事項が残ります。「この前提は残します。こちらは見直す対象です。次はこの方法で確かめます」と書けた時点で、文字起こしは事業判断へ変わります。
