市場規模の調べ方|国内の無料データソースと推計手順

この記事は、ネクストイノベーションベース編集部の鳥居 誉定が書きました。

企画会議で市場規模の調べ方を説明し、「この市場は大きいです」と結論を示した直後、役員から聞かれます。問いは「何年度の、誰の支出を数えたのか」です。

対象地域は国内だけか、海外も含めるかを決めます。数字も、メーカーの出荷額か小売の販売額かで意味が変わります。ここに答えられない市場規模は、桁が合っていても投資判断に使えません。

市場規模の調べ方は、対象・地域・期間・取引段階を固定するところから始まります。次に、公的統計から母集団、支出、販売額を取り、同じ年次・単位・範囲へそろえます。直接の値がなければ、代わりに使う指標と、その限界を記録します。

上位市場から絞るトップダウンと、顧客数から積み上げるボトムアップは、別々に計算してください。数字が割れたら平均を取らず、どの定義や前提が差を生んだかまで戻ります。第三者が再計算できる経路を残すことが、細かな一点推計より重要です。

この記事では、市場規模の推計に必要な基礎数値を無料の公的統計からどう探し、どうそろえ、2つの経路で計算して差を検証するところまでを追います。

市場規模を調べる前に、数える対象を一文で定義する

市場規模は、一定の地域と期間に、定義した商品・サービスが生み出す需要または取引の総量です。調査前に「誰の、何への、どの段階の支払いを数えるか」を一文で固定します。

同じ市場名でも、数え方は一つではありません。製造業者の出荷額、卸売業者の販売額、小売店の販売額、利用者の支出額、仲介サービスの流通総額は、いずれも別の数字です。流通の各段階を足せば、同じ商品を重複して数えることになります。プラットフォーム事業で流通総額と手数料売上を混ぜる場合も同じです。

着手前に、次の項目を一行で埋めます。

  • 対象:何を含み、何を除くか。商品名ではなく、顧客が支払う用途や取引条件で区切る
  • 顧客:企業、事業所、世帯、個人のどれを母集団にするか
  • 地域:国内全体、特定地域、海外を含む範囲のどこか
  • 期間:暦年、年度、四半期、月次のどれを基準にするか
  • 取引段階:出荷、卸売、小売、最終支出、契約、流通総額のどれか
  • 金額の範囲:税、送料、保守費、導入費、関連商品の売上を含むか

たとえば「国内の法人が、従業員向け研修サービスへ1年間に支払う利用料」と書けば、個人向け講座、教材販売、研修会場費を含むかどうかが論点として表に出ます。「研修市場」だけでは、この境界が見えません。

市場規模は外部にある確定値ではなく、意思決定のために置く仮説でもあります。何が分かれば推計を更新し、何が崩れたら対象市場を見直すかまで、調査前に決めておきます。

市場規模の調べ方はトップダウンとボトムアップを照合する

市場規模の算定方法は、大きな統計から対象分を絞るトップダウンと、顧客数・購入頻度・単価を積み上げるボトムアップの2系統です。一方だけで一点を出すより、差の理由を説明するほうが判断材料として強くなります。

トップダウンでは、対象に近い産業全体の販売額や支出額を起点にします。そこから絞る項目は、地域、顧客属性、用途、対象サービスの比率です。全体の桁を見誤りにくい反面、掛ける比率の出典が弱いと、計算を重ねるほど根拠が薄くなります。

式にすると次の形になります。

上位市場の総額 × 対象地域の比率 × 対象顧客の比率 × 対象用途の比率

ボトムアップは、買い手の数と取引行動からの積み上げです。契約単位が異なるBtoBとBtoCは式を分けます。

BtoB:対象企業数または事業所数 × 導入割合 × 年間契約額 BtoC:対象人数または世帯数 × 購入割合 × 年間購入回数 × 単価

2つの推計が一致する必要はありません。トップダウンが大きすぎるなら、上位統計に対象外の用途が混ざっている可能性があります。ボトムアップが大きすぎるなら、導入割合や単価を高く置きすぎた可能性があります。平均を取って差を消すのではなく、どの定義と前提が差を生んだのかを確かめます。

市場規模の調べ方|無料で使えるデータソース一覧

無料データの起点は、官公庁が公表する統計です。市場名から探すのではなく、必要な変数が企業数なのか、世帯支出なのか、販売額なのかを決めてから統計を選びます。

市場規模をそのまま掲載した資料が見つからなくても、推計に必要な母集団や支出額は公開されていることがあります。国内市場を調べる際の代表的な起点を、取得したい数値ごとに整理しました。

取得したい変数

無料データソース・探索先

集計粒度

更新頻度の確認

無料で確認できる範囲

推計に使う際の限界

統計の所在

e-Stat 政府統計の総合窓口

統計表ごと

統計ごとの公表周期、対象年、確報・速報を確認

検索、閲覧、公開表の取得

市場名と統計分類が一致するとは限らない

企業・事業所の母集団

経済センサス‐活動調査

産業分類、企業・事業所、従業者規模、地域

採用表の調査年と公表日を確認

公開された集計表

企業と事業所を混ぜると母集団を重複させる

人口・世帯の母集団

e-Statで人口・世帯の統計表を探す

年齢、世帯類型、地域など統計表ごと

基準日、対象年、公表周期を確認

公開された人口・世帯表

人口や世帯数だけでは購入者と支払者を特定できない

法人の売上・利益・投資

法人企業統計調査

業種、資本金規模など

四半期別・年次別のどちらを使うか確認

公開された集計表

個別サービスの需要、導入率、契約額の直接根拠にはならない

世帯の支出

家計調査

品目、世帯属性、地域など

月次・年次と調査対象期間を確認

公開された集計表

世帯と個人、ゼロ支出世帯、品目範囲を分けて読む必要がある

小売・卸売の販売額

商業動態統計調査

業態、商品、卸売・小売

月次、速報・確報、改定の有無を確認

公開された集計表

出荷額、卸売額、小売額を足すと同じ取引を重複計上する

上場企業の事業別売上

金融庁 EDINETと各社IR

会社、会計期間、開示セグメント

提出時期と対象会計期間を確認

有価証券報告書などの開示書類

会社全体や広いセグメントの売上を個別市場へそのまま配賦できない

分野別の供給・利用量

所管省庁と業界団体の原統計

制度、品目、事業者区分など資料ごと

調査年、公表周期、改訂履歴を確認

原表・調査概要が公開された範囲

会員企業だけの集計や有料部分を市場全体とみなさない

地域別の母集団・販売額

e-Statの地域表と自治体の原資料

都道府県、市区町村など資料ごと

基準時点と地域区分の変更を確認

公開された地域表

全国値を人口比だけで按分すると地域差を落とす

海外の人口・生産・販売額

対象国の統計機関と国際機関の原統計

国、地域、産業分類など資料ごと

対象年、公表周期、改訂履歴を確認

無料公開された原表

為替、分類、名目・実質、暦年・年度を国内統計と揃える必要がある

この一覧は、どの分野にも共通する入口です。医療、介護、建設、教育、エネルギーなどは、e-Statで所管機関の統計を探し、作成機関の原典へ戻ります。調査会社や業界メディアの数字は、無料公開部分で定義・推計方法・基準年・地域を確認できなければ計算根拠に置きません。検索語、採否、表番号、確認日は調査ログに残します。

データソースは、売上が「誰の、どの行動」から発生するかで選び分けます。

BtoBは企業数と事業所数を分ける

BtoBでは、全社契約なら企業数、拠点課金なら事業所数が母集団に近いです。経済センサス‐活動調査の産業分類と自社の営業上の業界名は一致しないことがあるため、合算した分類と除いた分類を残します。法人企業統計調査を使う場合も、資本金規模や業種区分が顧客条件と合うかを見ます。

BtoCは人数と支出主体を分ける

BtoCでは、利用者が個人でも支出主体が世帯である商品に注意が必要です。家計調査は品目だけでなく、対象世帯、期間、世帯属性まで確認します。広い品目の総額を自社市場と置かず、商業動態統計調査を併用するなら、世帯支出と小売販売額が同じ取引段階を見ているかを確かめます。

新しい市場は隣接市場と成立条件から組み立てる

新市場で母集団の手掛かりになるのは、隣接する産業分類や利用者数です。ただし「近い市場の何%」と根拠なく置きません。公開統計で埋まらない導入率、利用頻度、支払意思は、顧客候補への聞き取りや販売検証へ渡します。公開統計から取った値と、一次調査で置いた仮説は、同じ強さの根拠として扱いません。

市場規模の調べ方|公的統計を式へつなぐ7工程

市場規模調査は、定義、変数分解、分類照合、原典取得、正規化、2系統の計算、差分検証の7工程で進めます。検索を始めるのは、必要な変数を分けた後です。

7工程は、国内の公的統計を初期推計へつなぎ、第三者が同じ計算をたどれる状態にするための手順です。海外市場や規制産業では、対象国・所管官庁の分野別統計と一次調査で補います。

  1. 意思決定と市場定義を書く:「参入候補として残すため、国内の対象企業が該当業務へ年間に支払う金額を調べる」のように、調査後の判断と数える対象を一文にします。
  2. 計算式を先に置く:トップダウンとボトムアップの式を空欄で作り、企業数、対象割合、購入頻度、単価など、必要な変数を洗い出します。
  3. 統計分類と顧客定義を照合する:業種、企業規模、地域、世帯属性、品目を確認し、近い分類に混ざる対象と漏れる対象を書き出します。
  4. 原典の統計表から取得する:資料名、表番号、対象年、単位、該当行・列、URL、確認日を数値と一緒に残します。
  5. 年次・単位・取引段階を揃える:暦年と年度、円と千円、名目値と実質値、企業数と事業所数を混ぜません。揃わない変数は対象年を明記します。
  6. 2系統を別々に計算する:トップダウンの比率をボトムアップの導入率へ流用せず、出所と計算経路を分けます。
  7. 差を前提へ戻す:対象範囲、時点、価格、導入割合、重複から差の理由を探し、説明できない差は未確認事項として残します。

7工程では、推計レンジと、定義・原典・式・未確認事項がつながった計算経路を一組で残します。数字が更新されても、同じ手順で差し替えられる状態が目的です。

架空ケース|2経路の差から次の検証項目を決める

以下は計算経路を示すための、法人向け研修予約サービスの架空ケースです。資料名、表番号、行・列、数値はすべて作例です。

意思決定は「国内法人向けの研修予約サービスを、顧客ヒアリングへ進めるか」です。市場にはSaaS利用料だけを含め、研修コンテンツ、会場費、講師料、コンサルティング費は除きます。対象年は2024年、金額単位は計算時に億円へ揃える設定とします。

変数

架空の取得記録

作例の値

根拠の扱い

上位市場の総額

架空の公的統計A、2024年、表3、対象産業行・年間支出列、単位:億円

1,200億円

統計から取得した想定の作例

対象用途の比率

上位市場のうち研修予約SaaS利用料に当たる割合

4.0%

仮置き。原典なし

対象企業数

架空の企業統計B、2024年、表8、対象産業行・企業数列、単位:社

20,000社

統計から取得した想定の作例

導入割合

対象企業のうち年間契約する割合

5.0%

仮置き。顧客調査が必要

年間契約額

1社が1年間に支払うSaaS利用料

360万円

仮置き。価格検証が必要

トップダウンは「1,200億円 × 4.0% = 48億円」です。ボトムアップは「20,000社 × 5.0% × 360万円 = 36億円」となります。年次と単位を揃えても12億円の差が残るため、平均して42億円とは置きません。

このケースでは36億〜48億円を初期の仮説レンジとし、対象用途の比率、導入割合、実際の年間契約額を次の検証変数にします。上位市場の対象外用途が多ければトップダウンが下がり、購入責任者の支払意思が弱ければボトムアップが下がります。差によって明らかになるのは、誰へ何を聞くかです。

市場規模の調べ方|年次・単位・対象範囲を揃える

複数の市場規模が食い違うときは、正誤を急いで決めず、対象、地域、時点、取引段階、単位、推計方法を横並びにします。違う定義の数字は、近い値でも同じ市場を測っていません。

比較表には、資料名と作成機関、対象年、商品・顧客・地域の定義、取引段階、税と表示単位、集計・推計方法、採否の理由を並べます。

衝突が起きやすいのは、企業数と事業所数、メーカー出荷額と小売販売額、暦年と年度、国内売上と海外を含む連結売上、単年売上と累計導入額です。どちらかへ寄せるのではなく、今回の市場定義に合うほうを採用します。

為替換算や物価調整をするなら、レート・指数・基準日も変数として残します。推計表のセルには数値だけでなく出典と定義を付け、説明資料でも同じ変数名と出典番号を使います。

市場規模の調べ方|直接値がないときは幅と代理指標を残す

市場規模の直接データがない場合は、隣接市場の数字を答えとして流用せず、母集団・利用条件・価格の代理指標を組み合わせて下限と上限を出します。確認できない変数は空白ではなく、未検証の前提として明示します。

一点推計を避けるには、根拠が最も強い値で基準シナリオを作り、結果を大きく動かす変数を一つずつ振る方法が有効です。下限・上限は最小値・最大値の機械的な積ではなく、同時に成立し得る前提を一組にした仮説レンジです。

式へ入れる値の強さも分けます。公的統計の母集団、競合の公開価格、顧客候補への聞き取りで得た支出額、自社が置いた導入割合に、「原典あり」「単一資料」「一次調査」「仮置き」と印を付けます。感度が高く、根拠が弱い変数こそ次の検証対象です。

代理指標は、採用理由と限界を一対で書きます。近い産業分類の事業所数なら対象外業務の混入、競合の公開価格なら値引き・従量課金・実契約額が反映されない点を残します。

現在の負担額、予算の持ち主、切り替え条件は、公開情報だけでは埋まりにくい項目です。ここまで来たら検索を止め、対象者への聞き取りや小さな販売検証へ切り替えます。

市場規模の調べ方|調査資料を意思決定へつなぐ

市場規模の調査資料は、推計額に加え、定義、計算経路、原典、感度、未確認事項、次の判断まで示します。読み手が再計算し、前提を変えたときの影響を追える状態が必要です。

資料は、1ページの判断要約と計算表に分けます。判断要約には、対象市場の定義、推計レンジ、トップダウンとボトムアップの結果、差の主因、投資判断への影響を書きます。計算表に残す項目は、変数ごとの値、単位、対象年、出典、式、根拠の強さです。

計算表は、次の記号例をそのまま列にします。

項目

記入内容

レビューで確認すること

市場定義

対象顧客・用途・地域・期間・取引段階

含む対象と除く対象が明記されているか

母集団 N

企業数、事業所数、世帯数、人数のいずれか

単価を掛ける単位と一致しているか

対象割合 r

対象条件に合う割合

出典、仮置き、未確認のどれか

年間支出 P

年間契約額または年間購入額

税、導入費、頻度の重複がないか

算定式

N × r × P

別経路の推計との差を説明できるか

次の判断

継続、範囲変更、追加検証、見送り

感度が高く根拠が弱い変数は何か

変数ごとに責任者、承認者、次回更新日も置きます。市場規模は参入の正当化だけでなく、対象を狭める、価格仮説を検証する、見送るという判断にも使います。

まとめ|市場規模は再計算できる仮説として示す

市場規模の調べ方で優先すべきは、見栄えのよい一点を探すことではなく、対象を定義し、無料の公的統計から必要な変数を取り、別経路で照合できる計算を作ることです。

調査前に、対象、顧客、地域、期間、取引段階、金額の範囲を一文へ落とします。次にトップダウンとボトムアップの式を置き、e-Stat、経済センサス‐活動調査、法人企業統計調査、家計調査、商業動態統計調査、EDINETなどから、式に必要な値を選びます。

数字が合わなければ平均を取らず、年次、単位、対象範囲、取引段階へ戻ることが必要です。直接値がない市場では、代理指標の限界と仮説レンジを示し、埋まらない変数を一次調査へ渡します。

公開情報で埋まらない導入割合、支払額、切り替え条件は、推計表の未確認事項から対象者と質問を決め、一次調査で確かめます。

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