新商品の会議では、価格も機能も納期も同時に議題へ上がります。顧客に一つずつ「重要ですか」と尋ねれば、どれも重要という答えが返ってきます。当然です。全部を良くした案を否定する理由が、回答者側にないのですから。けれど採算と開発期間を無視した比較に、意思決定を助ける力はありません。
コンジョイント分析とは、商品を属性と水準の組み合わせで示し、選択データから各要素の影響を推定する調査手法です。条件の異なる商品案を選んでもらい、価格や機能の寄与を分けて読みます。
この記事では、新商品コンセプトを対象に、属性・水準の設計、主要形式の選択、集計、結果の読み方までを扱います。
コンジョイント分析とは|単項目評価との違い
価格や機能を別々に評価させるのではなく、複数の条件を束ねた商品案への反応から、各条件の相対的な影響を推定します。回答者にトレードオフを求める点が、単純な重要度質問との違いです。
全体の評価から構成要素ごとの部分効用を推定する方法として、この手法は1978年のレビュー論文で整理されています(出典:Green and Srinivasan, 1978)。
法人向けの業務支援サービスなら、月額料金、初期設定、問い合わせ方法、利用開始日が比較対象になります。各項目の重要度を別々に聞けば、すべて高得点です。充実していて安い案に、誰も反対しません。
コンジョイント分析では、低価格だが初期設定は自社対応の案、高価格だが個別支援付きの案。そういう組み合わせを提示します。すると「電話対応は欲しいが、そのために価格が上がるならメールでよい」という本音が、選択結果として表に出ます。
分析では、商品の構成要素を属性、属性ごとの選択肢を水準と呼びます。料金が属性なら、「低価格・中価格・高価格」が水準です。回答から推定するのは、各水準が選択へ与える相対的な好ましさ。これを部分効用値として表します。
部分効用値は、支払額でも将来の販売個数でもありません。調査で示した条件と回答者の範囲で、選ばれやすさを比べるための値です。
主要な形式は何が違うのか
コンジョイント分析は、回答者へ何を求めるかで形式が変わります。
形式 | 回答形式 | 主な出力 | 回答負荷 | 向く判断 | 主な制約 |
|---|---|---|---|---|---|
評定型 | 商品案ごとに点数を付ける | 評価と各水準の関係 | 案数に応じて増える | 商品案を一定の尺度で評価したい | 回答者ごとに点数の使い方が異なる |
順位型 | 複数の商品案を好み順に並べる | 商品案の選好順位 | 案が増えるほど上がる | 少数案の優先順を知りたい | 多数案の並べ替えは難しい |
選択型 | 複数案から一つ、または「どれも選ばない」を選ぶ | 選択に関わる係数と部分効用 | 課題数と一度に示す案数で変わる | 購入・採用に近い比較を再現したい | 実験計画と選択モデルの設計が要る |
適応型 | それまでの回答に応じて次の比較が変わる | 個人ごとの選好構造 | 回答経路により変わる | 属性候補が多く、比較を絞りたい | 使用システムの設計と回答経路の検証が要る |
新商品コンセプトでは、価格、機能、提供条件を束ねた候補から一つを選ぶ場面を作りやすく、現状維持が現実の選択肢なら「どれも選ばない」も含められるからです。選択実験として設計・分析する方法が、この選択型につながっています(出典:Louviere and Woodworth, 1983)。
ただし、知りたいことが商品案の評点や少数案の順位なら、選択型を自動的に採る必要はありません。
新商品コンセプト検証で向く問い・向かない問い
顧客が複数の条件を比較して選ぶこと、事業側も条件間の交換関係を知りたいこと。この二つがそろえば、コンジョイント分析が候補になります。顧客課題が未確認の段階や、候補となる属性そのものが分からない段階には早すぎます。
使う前に、「分析結果によって何を決めるのか」を一文にしてください。商品構成、料金プラン、実装機能、付帯サービス。「顧客のニーズを知りたい」では広すぎます。増やす条件、削る条件、検討する価格帯まで決めます。
向いているのは、複数の条件が同時に動く問いです。
- 価格を上げても付けるべき機能はどれか
- 納期とカスタマイズ範囲のどちらが選択を動かすか
- 基本プランと上位プランをどう分けるか
- 顧客セグメントによって好む組み合わせが変わるか
反対に、顧客が何に困っているのかを探る用途には向きません。属性候補がないまま調査票を作れば、社内発の機能だけで選択肢が閉じてしまいます。先に顧客インタビューや行動観察で、比較条件を拾ってください。
回答者が利用場面を想像できない商品にも注意が要ります。対象者、利用場面、解決する課題、提供形態を同じ粒度で示せなければ、属性を評価する以前にコンセプトの理解がそろいません。調査後の決定事項、属性候補、実行可能な水準、回答対象者。この四つが定まってから設計へ進みます。
属性と水準の決め方|調査票を作る前の設計
設計で残すのは、顧客が実際に比較する条件だけです。水準は具体的で、互いに重ならない表現にそろえます。実現不能な水準や意味が重なる属性を入れると、計算はできても事業判断には使えません。
属性候補は、顧客インタビュー、営業記録、競合比較、解約理由から集め、「結果が出たら事業側が変更できるか」で絞ります。信頼感のような抽象語は、保証期間やサポート条件など変更可能な要素へ分解してください。
以下は説明用の架空例です。
属性 | 水準の例 | 設計時に確認すること |
|---|---|---|
月額料金 | 1,200円/1,800円/2,400円 | 税込み・税抜き、契約期間、課金単位を統一する |
初期設定 | 自社対応/手順書付き/個別支援付き | 支援内容と回数を回答者が区別できる表現にする |
問い合わせ | メール/チャット/電話 | 対応時間や返信期限を別属性にするか決める |
利用開始 | 申込当日/3営業日後/7営業日後 | 実際に提供可能な日数だけを置く |
「高機能」「手厚い支援」のような形容だけでは、解釈が人によって割れます。「初期設定はオンライン面談1回を含む」のように、観察できる条件へ直してください。属性同士も重ねないこと。「サポート品質」の水準に電話対応を入れるなら、「問い合わせ方法」を別属性に置いてはいけません。
属性候補を減らすときは、順番があります。①対象者が実際の選択時に比較するか、②結果を受けて事業側が変更できるか、③水準を同じ粒度で提示できるか。この順で確認します。
全水準を総当たりにすると商品案が増えすぎます。推定に必要な情報を残しながら提示数を抑える実験計画を使ってください。分析担当者には、技術上同時に成立しない組み合わせ、契約上提示できない条件、採算や提供能力を超える案を、制約として渡します。
調査票の作り方|選択型コンジョイント分析の流れ
調査票は、共通の前提説明、回答者条件の確認、商品案の比較課題、理解度確認の順に組みます。商品案だけを突然見せると、回答者ごとに利用場面と価格単位がずれます。
新商品コンセプト検証では、複数の商品案から一つを選ばせる選択型が向いています。購入時の比較に近い形を作れるからです。既存手段を継続する選択肢が現実にあるなら、「どれも選ばない」を置いてください。無理に新商品を選ばせても、得られるのは架空の需要です。
順序は次のとおりです。
- 利用場面を示す。 誰が、どの業務や生活場面で、何を解決する商品なのかを書く
- 価格単位を固定する。 月額、年額、1人あたり、1回あたりなどを明記する
- 対象者を確認する。 購入経験、利用頻度、担当業務、決裁への関与を尋ねる
- 商品案を比較させる。 属性の並び順と表現をそろえ、複数回の選択課題を提示する
- 回答品質を確認する。 説明理解、回答時間、自由記述との矛盾を点検する
商品案は、属性の順序、説明量、単位、注記の位置をそろえます。同じ案を常に左端へ置く、特定の水準だけ色を付ける。こうした細部が、属性以外の要因を選択へ混ぜ込みます。商品案や選択課題の順序は、回答者間で入れ替えてください。
回答数と一人あたりの課題数は、一律の目安だけでは決められません。調査票を確定する前に、次の入力情報と判断手順を分析担当者へ渡します。
- 推定対象を定める。 属性、水準、交互作用を置くか、全体平均と個人差のどちらを読むかを決める
- 成立しない組み合わせを除く。 技術、契約、採算、提供能力の制約を一覧にし、実験計画へ反映する
- 課題数を予備調査で調整する。 読解時間、同じ選び方の連続、途中離脱、自由記述の理解度から回答負荷を確認する
- 必要回答者数を設計条件から見積もる。 推定する係数の数、各水準の提示回数、セグメント別集計、採用モデル、欠損・品質除外の見込みを入力にする
- 符号化と基準水準を決める。 ダミー符号化か効果符号化かを選び、係数が何との差を示すのかを集計表へ明記する
- 推定モデルを選ぶ。 平均的な選好を読むのか、回答者間の異質性まで扱うのかを先に決める
- 検証方法を先に置く。 推定に使わないホールドアウト課題、適合度、係数方向、再推定時の安定性のうち、何で点検するかを決める
専門家へ相談するとき、「何人必要ですか」とだけ聞かないでください。属性・水準表、禁止する組み合わせ、比較したいセグメント、許容できる調査時間、予定する分析モデル、意思決定に必要な精度。これらを渡してはじめて、回答者数の話ができます。
本調査の前の予備調査では、属性名を理解できるか、水準の差が見えるか、あり得ない組み合わせがないかを確認します。ここで集めた自由記述は、結果ではなく調査票の修正材料です。
集計方法|部分効用値と重要度をどう出すか
集計では、各商品案が選ばれた記録を使い、属性水準ごとの部分効用値を統計モデルで推定します。読むのは絶対値ではありません。同じ分析内の水準差と、その不確実性です。
回答データは「誰が、どの選択課題で、どの商品案を見て、何を選んだか」という形へ整え、提示した属性水準をひも付けます。未回答や極端に短い回答を機械的に削除しないこと。除外基準は事前に決めて適用します。
選択型では、選ばれた案を目的変数、各水準を説明変数として扱い、ロジット系のモデルなどで部分効用値を推定します。ロジットを含む離散選択モデルの仮定、推定、シミュレーションは体系的にまとめられています(出典:Train, 2009)。採用モデルは回答形式と調査設計で変わります。分析ツールの初期設定を使う場合も、独立性の仮定、異質性の扱い、符号化、基準水準は必ず確認してください。
説明用の架空出力を置きます。基準となる水準との差を示す符号化を採用した場合、次のような値が出たとします。
属性と水準 | 部分効用値の作例 | この分析内での読み方 |
|---|---|---|
月額1,200円 | 0.8 | 基準より選択へ正に働く |
月額2,400円 | -0.9 | 基準より選択へ負に働く |
個別支援付き | 0.6 | 支援なしより選ばれやすい |
この数値は実データではありません。0.8が購入率80%を意味するわけでもありません。尺度はモデルや符号化で変わるので、比べるのは同じ分析内の水準差だけです。
属性の重要度は、各属性内の部分効用値の最大値と最小値の差を取り、全属性の差に占める割合として計算する方法があります。部分効用の推定と解釈は、採用したデータ収集法やモデルの前提と切り離せません(出典:Green and Srinivasan, 1978)。
価格の水準差が大きければ、調査で提示した範囲では価格が選択を動かしやすかった、と読みます。ここで注意が要ります。価格幅を意図的に広く取れば、重要度も大きく出ます。重要度は顧客の普遍的な価値観ではなく、設定した水準範囲に左右される指標です。
集計表では標準誤差や信頼区間、モデルの適合状況も確認し、差の小さい水準を順位だけで勝敗判定しないでください。
結果の読み方|商品案と価格の判断へつなげる
属性順位の発表で終わらせてはいけません。実現可能な商品案を組み直し、選ばれ方と採算の変化を比べるところまでが仕事です。顧客選好だけで最終仕様を決めず、原価、提供能力、競合条件と合わせて判断します。
最初に見るのは水準差です。電話とチャットの差が小さくても、調査に「問い合わせなし」を入れていなければ、窓口の有無は比較できていません。
次に、提供可能な商品案を複数作り、各案の効用を合算して選択シェアをシミュレーションします。調査に出していない組み合わせも、属性と水準の範囲内なら比較できます。調査で示した範囲の外へ極端に広げて読むのは避けてください。
意思決定では、選好結果のほかに、低価格案なら粗利と提供コスト、機能強化案なら開発期間と保守負担、支援強化案なら対応人数と品質の再現性を並べます。
価格属性を入れた場合、非価格属性の係数と価格係数の比から、支払意思額の参考値を求めることがあります。離散選択モデルの係数は、モデルの尺度と仮定のもとで解釈する必要があります(出典:Train, 2009)。換算値だけを切り出して「顧客はこの機能に○円払う」と断定しないこと。信頼区間、価格係数の符号、モデルの適合度を併記し、追加の価格調査や実売テストへ渡します。
全体平均だけでなく、セグメント差も見ます。誰の選好を優先するかは、分析が決めてくれません。狙う顧客層と提供体制を踏まえて、人が決めます。
最終候補は、商品説明ページ、見積もり提示、プレセールスなど、行動を伴う検証へ進めてください。コンジョイント分析は候補を絞る工程であって、販売の代わりにはなりません。
失敗しやすい設計とPSM分析との使い分け
属性候補の不足、水準の非現実性、回答者条件のずれ、結果の過剰解釈。この四つがあると、出力は事業判断に使えなくなります。価格の受容範囲だけを知りたいなら、複雑な選択設計をせずPSM分析を選ぶ手もあります。
典型的な失敗を挙げます。
- 社内で扱いやすい属性だけを選ぶ。 顧客が比べる導入負荷や契約条件が抜けます。調査前のインタビューで選択理由を確認してください
- 実現不能な水準を混ぜる。 最低価格・全機能・最短納期の案が選ばれても提供できません。制約を実験計画へ反映します
- 回答者の立場を混ぜる。 BtoBの利用者、選定担当者、決裁者、購買部門は分けて記録します
- 重要度を普遍的なニーズと扱う。 重要度は属性と水準の範囲で動きます。対象者、提示方法、モデルと一緒に報告してください
コンジョイント分析とPSM分析を混同する
PSM分析は、「高すぎて買えない」「安すぎて品質が不安」といった価格質問から、受容価格帯を探る手法です。総務省統計局は、4つの価格質問から得た曲線の交点を使う方法としてPSM分析を説明しています(出典:総務省統計局「最適な価格設定」)。
一方、コンジョイント分析は、価格を含む複数属性の交換関係を見ます。価格帯を絞るならPSM分析、機能や提供条件と価格を同時に比べるならコンジョイント分析。目的で選び分けます。
二つは排他的ではありません。PSM分析で価格候補の範囲を絞り、その範囲をコンジョイント分析の価格水準へ使う流れもあります。ただし、同じ回答者へ長い調査を一度に詰め込むと疲労が増えます。目的、調査時間、分析順を分けて設計してください。
まとめ|コンジョイント分析は選ばれる組み合わせを探る手法
コンジョイント分析は、商品を属性と水準へ分け、複数の商品案から得た選好データによって、価格・機能・提供条件の交換関係を読む手法です。出力は商品案を絞る判断材料であって、販売実績や需要予測そのものではありません。
新商品コンセプト検証では、まず調査後の決定事項を定め、顧客が実際に比べる属性を定性調査から選びます。属性候補は、対象者が比較するか、事業側が変更できるか、同じ粒度で水準を示せるか、の順に絞ります。水準は具体的で互いに重ならず、提供可能な条件へ限定します。調査票では利用場面と価格単位をそろえ、商品案の表示順や説明量による偏りを避けます。
集計では部分効用値と属性重要度を出せますが、数値は同じ分析の中で比べます。商品案へ組み直した後は、顧客選好だけでなく、原価、開発期間、提供能力、狙う顧客層を並べます。候補が決まったら、見積もり提示やプレセールスなど行動を伴う検証へ進みます。ここまでつながって、はじめて分析が事業判断に働きます。
