売上が大きい既存事業、成長は速いが赤字の新規事業、顧客は少ないものの将来性がある研究テーマ。経営会議で三つを比べても、「どれも重要だ」という結論から動かない。事業ポートフォリオは、複数の事業を同じ条件で比べ、投資、維持、縮小、停止を決めるために使います。
代表的な分析方法がPPMです。ただし、4象限へ事業名を置くだけでは、予算も人員も動きません。分類結果を、判断者、期限、次の行動、再開条件へつなぐ必要があります。
この記事では、事業ポートフォリオをPPM分析で見直し、停止・縮小・拡大の判断と資源の移動へつなげる手順を解説します。
事業ポートフォリオを決定権へつなぐ
事業ポートフォリオを見直す前に、誰が何を決められるかをそろえます。分析結果が「縮小」でも、部門長に人員を移す権限がなく、役員会の日程も決まっていなければ、現場は従来の計画を続けるしかありません。
各事業について、次の4点を1ページへ置きます。
- 事業責任:収益、顧客、開発の責任者は誰か
- 更新条件:どの指標が、どれだけの期間変化したら見直すか
- 停止権限:部門内で止められるか、役員承認が必要か
- 再開条件:何が確認できれば、再び投資対象へ戻すか
たとえば新規サービスの営業を一時停止する場合、開発まで止めるのか、既存顧客の支援は続けるのかで必要な判断者が変わります。「事業を止める」と一言で決めず、停止する活動と残す責任を分けてください。
中期経営計画と事業ポートフォリオで、事業名や指標の定義が違う場合も注意が必要です。一方では一事業、他方では複数サービスとして数えていれば、同じ売上や費用を二重に扱うおそれがあります。
事業ポートフォリオをPPM分析で見る
PPMは、グロースシェア・マトリクスとも呼ばれるポートフォリオ管理のフレームです。市場成長率と相対的市場シェアの2軸で事業を4象限へ分け、資源配分を考えます(出典:Boston Consulting Group「グロースシェア・マトリクスとは」)。
市場成長率 | 相対的市場シェア | 象限 | 基本的な論点 |
|---|---|---|---|
高い | 高い | スター | 成長を取り込むため、必要な投資を続けるか |
低い | 高い | 金のなる木 | 生み出す資金をどこへ振り向けるか |
高い | 低い | 問題児 | シェア獲得へ投資するか、見切るか |
低い | 低い | 負け犬 | 縮小、売却、再配置、停止のどれを選ぶか |
PPMの利点は、性格の異なる事業を二つの共通軸へ置けることです。一方で、市場成長率と相対的市場シェアだけでは、技術の将来性、顧客との関係、事業間の連携、法規制、撤退費用までは分かりません。
たとえば市場シェアが小さくても、既存事業の顧客を守るために必要な製品があります。反対に、高いシェアを持っていても、保守負荷や設備更新が重ければ、資金を生み続けるとは限りません。
したがってPPMは結論ではなく、追加で確かめる問いを選ぶ起点として使います。各事業に置く数値は、対象市場、期間、算出方法をそろえてください。
事業ポートフォリオの停止・縮小・拡大ルール
4象限へ分類したら、次の行動を停止、縮小、拡大の3つへ分けます。「維持」は、現状を無期限に続ける言葉ではなく、次の判定日まで条件を変えない状態として扱います。
- 停止:顧客対応など必要な責任を残し、新規投資や活動を止める
- 縮小:対象顧客、機能、地域、予算を絞り、残す価値を確かめる
- 拡大:再現できる条件が確認できた事業へ、人員や予算を追加する
たとえば「問題児」に入った新規事業を、成長市場だからという理由だけで拡大しません。相対的市場シェアを上げられる顧客接点、製品差、投資余力があるかを確認します。条件がなければ、対象を絞って検証するか、停止を選びます。
判定表には、次の項目を置いてください。
- 判定に使った条件と数値
- 停止・縮小・拡大の選択
- 実行する担当者と期限
- 次回の判定日
- 再開または再拡大の条件
停止した事業にも、再開条件を残します。「市場が回復したら」ではなく、特定顧客から有償の引き合いが出る、必要な技術要件を満たす、提供原価を一定範囲まで下げるなど、あとから確かめられる条件にします。
事業ポートフォリオ再編前の5点診断
事業を並べる前に、比較できる状態かを5点で確認します。同じ「売上」でも、連結前の金額と社内取引を含む金額、単月と年間では意味が違います。
- 事業の境界:どの製品、顧客、取引、費用を含めるか
- 観測周期:月次、四半期、年次のどこで比較するか
- 判定条件:何を満たしたら停止、縮小、拡大とするか
- 資源の移し先:回収した人、予算、顧客接点をどこへ移すか
- 再開条件:どの事実が変われば、再評価するか
たとえば既存事業は四半期売上、新規事業は面談件数だけを並べても、投資効率は比べられません。新規事業には段階に合う指標が必要ですが、使った予算、人員、期間は共通形式で示せます。
更新カレンダーには、観測日、判定日、判定結果、追加条件、次回レビュー日を置きます。誤った前提が分かった場合の修正方法も決めておけば、過去の数字を無理に正当化せずに済みます。
事業ポートフォリオ会議の運用フロー
会議の目的は、参加者の意見をすべて集めることではありません。事業ごとの判定と、資源を動かす担当者を決めることです。
会議は次の順で進めます。
- 比較条件を確認する:対象期間、事業境界、例外条件をそろえる
- 変化した事業だけを見る:前回の判定から外れた指標と前提を確認する
- 停止・縮小・拡大を決める:判断理由と反対意見を短く残す
- 資源の移動を決める:人員、予算、顧客対応、開発枠の移し先を決める
- 次回条件を固定する:担当者、期限、再開条件、次の判定日を記録する
営業は契約数を根拠に拡大を求め、財務は粗利低下を理由に縮小を求めます。この場合、どちらかの意見を採る前に、期間、売上の定義、提供原価、継続条件をそろえます。
議事録には発言をすべて残さず、決定、根拠、未達条件、担当者、期限を書きます。次回の会議では、前回と変わった条件だけを確認してください。
事業ポートフォリオで失敗しやすい実務パターン
分析図が完成しても資源配分が変わらない場合、PPMの作り方より、判断条件と会議設計に問題があります。代表的な二つの場面を見てみましょう。
一つ目は、部門ごとに拡大条件が違う場面です。営業は契約件数、財務は粗利、開発は保守工数を見ています。三つを別々に判断すると、同じ事業へ拡大と縮小が同時に出ます。
修正するには、次回判定までに必要な条件を一つの欄へ置きます。「契約件数だけでなく、粗利と継続率を満たす」「保守工数が基準を超えたら拡大を止める」など、指標同士の優先順位を決めます。
二つ目は、一度止めた事業を再評価できない場面です。停止を失敗の確定と扱うと、市場や技術が変わっても、担当者は提案しにくくなります。
停止時に再開条件と再評価日を残してください。「6か月後に自動で再開」ではありません。6か月以内に特定の顧客行動や技術条件が確認できた場合、再び比較対象へ戻すという設計です。
FAQ
Q1. 損益が悪化したら、事業をすぐ停止すべきですか
単月の損益だけでは決めません。悪化した理由、観測期間、改善できる条件、撤退に必要な費用を確認します。ただし、事前に決めた停止条件へ触れた場合は、担当者の期待だけで先送りせず、定めた会議で判断してください。
Q2. PPM分析は新規事業だけに使うものですか
いいえ。既存事業を含む複数の事業や製品を比べ、資源配分を考えるために使います。新規事業は売上やシェアを測りにくい場合があるため、段階に合う補助指標と投資期限も添えます。
Q3. 事業ポートフォリオはどこから作り始めますか
まず、比較する事業の境界と責任者を決めます。次に、PPMの2軸を含む共通指標、観測期間、停止・縮小・拡大の条件をそろえます。事業名を図へ置くのは、その後です。
まとめ|事業ポートフォリオを次の資源配分へつなぐ
事業ポートフォリオは、複数の事業を同じ条件で比べ、投資、維持、縮小、停止を決めるための設計です。PPM分析では、市場成長率と相対的市場シェアを使い、スター、金のなる木、問題児、負け犬の4象限へ整理します。
ただし、分類だけでは実行に移りません。事業の境界、観測周期、判定条件、資源の移し先、再開条件をそろえ、会議で担当者と期限まで決めてください。
自社の事業ポートフォリオを更新条件まで含めて見直す場合は、対象事業、意思決定期限、役員レビューの周期、予算責任、現在の停止・再開条件を整理したうえで、事業ポートフォリオ設計相談をご利用ください。
