副業人材の活用ガイド|新規事業での受け入れ設計と契約の実務

この記事は、ネクストイノベーションベース編集部の花田 海が書きました。

「新規事業を一緒に立ち上げてくれる副業人材を探している。いい人がいたら紹介してほしい」。こうした相談は珍しくありません。ただ、条件を聞いていくと、たいていは「一緒にやってくれる人」という粒度で止まっています。

これは担当者の詰めが甘いからではありません。何を確かめるべきかは検証を一巡させてからでないと決まりませんし、社内の意思決定は外部人材の必要性が具体化した後に動きはじめます。粒度が定まらない状態から相談が始まるのは、構造上ふつうのことです。

問題は、その粒度のまま人を探しはじめることのほうにあります。週8時間しか動けない人に、範囲の定まらない仕事を渡すことになります。三ヶ月後、双方が同じ感想を持ちます。「悪い人ではなかったけれど、何が進んだのかよく分からない」。

副業人材の受け入れ自体は、もう珍しい打ち手ではありません。ジョブズリサーチセンターの「兼業・副業に関する動向調査2024」企業調査では、社外の兼業・副業人材を受け入れている企業は53.7%で、2022年の同調査から5.1ポイント増えています。つまり成否を分けるのは受け入れの是非ではなく、渡す業務を週数時間で完結する単位に割れているかどうかです。

そのため、順序を入れ替えます。

副業人材とは|新規事業で使われる3つの関与形態

副業人材とは、他社に本業を持つ個人が、雇用または業務委託の形で自社の業務に部分的に関与する働き手を指します。中小企業庁のミラサポplusは「一般に企業の社員として働きながら、勤務時間外に他社の仕事を請け負う人材」と定義し、広義にはフリーランスも含むとしています(中小企業庁「事例から学ぶ!『副業人材』」)。自治体や公的支援の文脈では副業・兼業プロ人材と呼ばれますが、指しているものは同じです。

関与形態は、契約の種類と関与の深さで3つに分かれます。指揮命令できるか、成果物で受け取るか、助言だけを受けるか。どれを選ぶかで、必要な社内準備がまるで違います。

1つ目は、業務委託(準委任・請負)で実務を担ってもらう形。 リサーチ、資料作成、プロトタイプ開発、施策設計といった、成果物または稼働時間で区切れる業務に向きます。指揮命令はできず、進め方は受託側の裁量に委ねる前提になります。

2つ目は、雇用契約(パート・アルバイト等)で受け入れる形。 指揮命令下で働いてもらえる代わりに、労働時間の通算をはじめとする労務管理が発生します。実務では少数派ですが、機密性が極端に高い領域や、社内システムへの深いアクセスが必要な場合に選ばれます。

3つ目は、助言・レビューに限定した関与。 月1〜2回の壁打ちや企画レビューを、顧問契約やスポットの相談として結ぶ形です。実務は自社で回し、判断の精度だけを上げたい場合に効きます。単発のスポット相談として軽く組む設計も、この形の延長にあります。

新規事業の文脈で寄せられる「副業人材を入れたい」という相談の大半は、1つ目の業務委託を指しています。

副業人材が効く工程・効かない工程

副業人材が効くのは、専門性が要り、かつ他工程との依存が少ない業務です。逆に、社内の合意形成が絡む工程や、日々の判断が連続する工程は、週数時間の関与では動きません。

効きやすいのは次のような工程です。

  • 市場・競合のデスクリサーチ:調べる範囲と出力形式を先に決めれば、独立して進む
  • 特定領域の技術・法規制の当たりをつける調査:業界経験者に聞くのがもっとも速い
  • プロトタイプやLPの制作:仕様が固まっていれば成果物で区切れる
  • 既存事業では扱わない販路・チャネルの設計:知見が社内に存在しない領域
  • 企画のレビュー、仮説の壁打ち:関与時間が短くても価値が出る典型

効きにくい工程もはっきりしています。社内の稟議・調整、既存部門との利害調整、日次の意思決定を伴うプロジェクトマネジメントは渡せません。社内の力学を知らない相手が、週8時間の関与で部門間の合意を取り付けることはできないからです。外部が担えるのは、調整に使う材料をつくるところまでになります。

渡せないものがもう一つあります。何を確かめるべきかの定義と、事業をやると決める判断です。この2つは事業責任者の仕事で、外部に委ねると、成果物が出ても次のアクションが決まりません。外部に出す線を引くときは、新規事業のチームに必要な役割の全体像とあわせて考えると迷いが減ります。

なお、切り出した工程が定常業務として続く見込みなら、人を1人探すより、業務プロセスの設計と運用をまとめて外部に委ねる形(BPaaS)のほうが管理は軽くなります。切り替えの目安は3つあります。その業務が単発で終わらず定常化するか、月あたりの工数が一定量を超えるか、引き継ぎ手順と品質基準を文書で残す必要があるか。どの工程を出すかが決まらないまま外部リソースを増やすと、費用だけが積み上がります。

副業人材に任せる業務の切り出し方|週の稼働時間から逆算する

副業人材に渡す業務は、週の稼働時間の中で完結する単位まで割ります。これが受け入れ設計のすべてと言っていいほど効きます。多くの企業が最初に渡す「新規事業の立ち上げを手伝ってほしい」は、単位として大きすぎて着手できません。

ステップ1:稼働時間の上限を先に置く。 募集を出す前に、相手と合意する週あたりの上限時間を仮に決めてしまいます。上限が決まると、渡せる仕事の大きさが自動的に決まります。時間を決めずに業務を書き出すと、必ず入りきらない量になるからです。

ステップ2:成果物の形を書く。 「調査してほしい」ではなく「競合5社の価格体系と提供範囲を1枚にまとめた比較表」まで書きます。判断が必要な部分は成果物に含めず、判断材料の提示までを範囲にします。

ステップ3:完了の判定者と判定基準を決める。 誰が受け取り、何をもって完了とするのでしょうか。ここが曖昧だと、修正が無限に続くか、受け取ったまま放置されるかのどちらかになります。

この3つを書き終えると、依頼文は半ページ程度に収まります。収まらない場合は、まだ業務が割れていません。考える相手が必要なら、実務の委託ではなく助言型の関与として設計したほうが早く進みます。

うまく回らない依頼には、書き方の共通点があります。「◯◯の改善」。改善は状態の名前であって、成果物の名前ではありません。これを「期日までに、競合5社の価格体系を1枚にまとめた比較表を1本」と書き換えると、受け手からの質問が減ります。理解が深まるからではなく、質問しなくても着手できる粒度になるからです。初回の依頼は、2〜4週間で完了する単位に置くのが目安になります。進め方の相性も、報告の粒度も、こちらの説明不足も、最初の一巡で全部見えるためです。

月あたりの稼働量には、公表された参照点がひとつあります。総務省の地域活性化起業人(副業型)は、勤務日数・時間を月4日以上かつ月20時間以上と定めています(総務省)。

副業人材の探し方5ルート|民間サービスと公的機関の使い分け

副業人材の探し方は、民間4ルートと公的機関1ルートの計5つです。探している相手の性質と自社の所在地によって、当たるルートが変わります。最初の分岐は、「スキル」で探すのか、「経験した状況」で探すのかです。

ルート

向いている探し方

当たりやすい相手

発注できないこと

副業マッチングサービス

スキル・職種・稼働時間で条件指定

Web制作、開発、デザイン、広告運用などスキルが定義しやすい領域

「その状況を経験した人」を条件に指定した探索

リファラル(社員経由の紹介)

信頼できる人を1人ずつ

前職の同僚、取引先の担当者など関係の下地がある相手

社内人脈の外にいる相手への到達

コミュニティ・勉強会

関心テーマが近い層への接触

特定技術・業界に強い関心を持つ実務者

期日と稼働量を約束した発注

共創・探索型プラットフォーム

職種と実務文脈で探索

「その業務を今まさに担当している人」への接点

継続的な稼働を伴う実務の発注、統計的な代表性が要る調査

自治体・公的機関の事業

地域企業の経営課題に紐づく募集

地方拠点の課題に関与したい都市部の実務者

都市部本社単独の案件(対象は地域企業・自治体)

民間4ルートの選び分け

「ReactでLPを作れる人」はスキルで書ける条件なので、マッチングサービスが速いです。一方、「製造業の生産管理部門で、在庫システムの入れ替えを社内で通した経験がある人」はスキル欄に存在しない条件になります。この場合は、職種と経験した状況から探すルートのほうが当たります。

Spreadyは、4つ目の類型にあたります。事業テーマと会いたい相手の条件を登録すると、社外のコラボレーター(各社の実務者)と探索目的の対話を設定できます。発注できるのは対話であって稼働ではありません。実務を継続的に担ってもらう段階なら、稼働契約を前提とした副業マッチングサービスのほうが適します。目的が「知見を借りる」なのか「手を借りる」なのかで、選ぶルートが変わるわけです。

副業・兼業プロ人材|各道府県の拠点を入口にする

「副業・兼業プロ人材」は、内閣府のプロフェッショナル人材事業を通じて地域企業が受け入れる副業人材を指す呼び方です。同事業は各道府県にプロフェッショナル人材戦略拠点を設置し、地域企業と外部人材のマッチングを支援する仕組みで、受け入れ主体は地域企業になります(内閣府)。

企業側の入口は、自社の拠点が所在する道府県の戦略拠点です。経営課題と求めたい要件を持ち込み、拠点側で募集要件の形に整えてもらってから候補者に当たります。費用の発生の仕方は紹介の経路によって変わるため、着手前に拠点へ確認してください。地方に本社または子会社の拠点があれば募集コストは低い一方、都市部本社単独の案件をそのまま持ち込むことはできません。受け入れ側の事例は中小企業庁のミラサポplusが公開しており、静岡県の飼料製造会社が事業計画の策定と新商品開発プロジェクトに副業人材を活用した例が載っています(中小企業庁)。

混同しやすい制度|地域活性化起業人は「送り出す側」

総務省の地域活性化起業人は、名前が並んで出てきますが向きが逆の制度です。三大都市圏に所在する企業の社員を地方の自治体が一定期間受け入れる仕組みで、協定と財政措置の相手も自治体側にあります。受け入れ主体は地方公共団体であって、地域企業ではありません(総務省)。令和6年度から加わった副業型も、企業に所属する個人と自治体が協定を結ぶ形で、企業に属さないフリーランスは対象になりません(要件は月4日以上かつ月20時間以上の勤務、受入自治体での滞在日数は月1日以上)。つまり副業人材を受け入れたい立場では使えず、自社の社員を自治体へ送り出す側の話です。

5ルートは排他ではありません。探索型で数名と話して論点を整理し、稼働が必要な部分だけをマッチングサービスで発注する組み合わせがよく機能します。順序を逆にすると、何を発注すべきかが決まらないまま契約することになります。

契約と社内手続き|副業人材固有の確認事項

副業人材の契約で追加になる論点は4つで、いずれも本人の本業側に起因します。個別の判断は、社会保険労務士・弁護士等の有資格者に確認する前提で読んでください。

本業側に起因する4論点

  1. 本業先の副業許可の有無:許可制・届出制の企業が多い。就業規則上の扱いを本人に確認してもらう
  2. 競業避止と利益相反:本業と同一領域の業務を依頼する場合、どこまでが許容範囲かを事前に整理する
  3. 秘密保持の範囲と期間:新規事業の企画情報は開示を段階的にする。探索段階では事業名や具体的な数値を伏せ、論点だけを相談する形にできる
  4. 成果物の知的財産権の帰属:著作権の譲渡、著作者人格権の不行使、業務発明の扱いを明記する

法令面で押さえる2本の線

雇用契約なら、労働時間の通算が発生します。 労働基準法(昭和22年法律第49号)第38条第1項は、労働時間について事業場を異にする場合も通算すると定めています(e-Gov法令検索)。本業と自社の合算が法定労働時間を超えれば、割増賃金の負担が生じます。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」は、通算を毎回積み上げずに運用する簡便な方法として、自社と副業先それぞれの労働時間の上限をあらかじめ設定しておく管理モデルを示しています(厚生労働省)。

業務委託なら、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律/令和5年法律第25号、2024年11月1日施行)の義務がかかります。 同法は義務の名宛人を分けており、取引条件の明示(第3条)はすべての業務委託事業者に、報酬支払期日を給付の受領日から60日以内に定める義務(第4条)は従業員を使用する等の特定業務委託事業者に課されます(e-Gov法令検索、公正取引委員会)。自社がどちらに当たるかは、有資格者への確認事項として渡してください。

募集より先に着手する社内手続き5項目

社内で通す段取りは、募集を出す前に着手します。大企業で個人1名を受け入れるとき、リードタイムを決めるのは人探しではなく、社内手続きのほうだからです。

  1. 購買規程と決裁ライン:個人との直接契約を認めているか。認めていない場合は、間に受け皿となる事業者を立てるか、規程の例外承認を取るかの二択になる。ここが通らないと残り4項目が空振りするため、最初に確認する
  2. 取引先マスタへの登録:個人事業主の与信審査と、インボイス登録番号の有無。登録が済むまで発注書を起こせない
  3. 情報システム部門のアカウント発行と権限範囲:社外の個人にどこまで権限を出せるか。付与できない場合は、資料の受け渡し方法を先に決めておく
  4. 法務のNDAひな形と締結順序:探索段階のNDAと契約時のNDAを分けるかを決める
  5. 費目と予算枠の確保:外注費のどの枠から出すか、期中の枠に収まるか

このうち購買規程と情シスの2つは、個人との取引を想定していない社内ルールに当たって止まりやすい項目です。手続きを待たせているあいだに、相手の関心は本業へ戻ってしまいます。

副業人材の立ち上がりを早くする受け入れ設計

副業人材の立ち上がりの巧拙は、初回スコープを終える頃にはおおむね見えています。週数時間の関与では社内文脈をキャッチアップする余地がなく、その負荷を発注側が肩代わりできるかどうかが分かれ目です。

受け入れ側が最初に用意するものは4つあります。

1. 前提の共有資料。 事業の背景、分かっていること、分かっていないこと、今回の依頼が全体のどこにあたるか。A4数枚で足ります。既存の社内資料をそのまま渡すと、社内用語と前提知識の壁で読めません。抜粋して書き直す手間を惜しむと、質問対応で同じだけの時間を使うことになります。

2. 判断できる人との直接接点。 窓口担当としか話せない体制だと、確認のたびに往復が発生し、稼働時間が待ち時間で消えます。短時間でかまわないので、判断できる人が同席する定例を週1回置いてください。

3. 質問の非同期チャネル。 本業の合間に動く相手なので、同期のやり取りを前提にすると進みません。チャットで随時聞ける状態にしておきます。

4. 初回の成果物の見本または水準の提示。 「こういう粒度で」を言葉だけで伝えるのは難しいものです。過去の類似資料を1つ見せると、粒度をめぐる往復が減ります。

評価は、稼働時間ではなく成果物と論点の前進で見ます。何時間動いたかを管理しようとすると、業務委託では契約形態と矛盾してしまいます。合意した成果物が期日に出たか、次に何を確かめるべきかが明確になったか、で判断してください。継続の判断は初回スコープの完了時点で行い、この区切りを最初から契約に書いておくと、双方が言い出しやすくなります。

よくある失敗|稼働時間を細切れに拘束する

副業人材の活用でもっとも多い失敗は、社内メンバーと同じ時間の使い方を求めることです。週8時間の契約で、平日毎日1時間の定例に出てもらう設計にすると、実質的な作業時間はほとんど残りません。本業を持つ相手がまとまった時間を確保できるのは、平日の夜か週末です。

対処は単純で、同期のイベントを週1回に集約し、残りを非同期で回します。定例に出られなかった回のために、決定事項を3行で残す運用をセットにしてください。議事録をつくる余裕がなければ、決めたことと次にやることだけで十分です。

よくある質問

Q. 副業人材の報酬はどう決めればよいですか?

決め方から入るのが早いです。同じ業務を制作会社やコンサルティング会社に発注した場合の見積を1本取り、そこから自社で担う範囲を差し引いた水準を起点にします。契約の形は、成果物単位か月額固定(稼働時間の上限を明示)のいずれかが一般的です。フリーランス法により、報酬額と支払期日は業務委託の時点で明示する必要があります。

Q. 本業の会社に知られずに関与してもらうことはできますか?

推奨できません。多くの企業の就業規則が副業を許可制または届出制としており、これに反した関与は本人のリスクになります。発注側としても、後から発覚して契約が途中で終わるほうが損失は大きくなります。契約前に、本業先の規程上どのような扱いになるかを本人に確認してもらうのが実務上の前提です。

Q. 副業・兼業プロ人材と副業人材は何が違いますか?

指しているものは同じで、呼び方が違うだけです。自治体や公的支援の文脈では、内閣府のプロフェッショナル人材事業を通じて地域企業が受け入れる副業人材を「副業・兼業プロ人材」と呼びます。入口が各道府県のプロフェッショナル人材戦略拠点になる点が民間サービスとの違いで、受け入れ主体は地域企業です。

まとめ|探す前に決めることがある

副業人材の活用は、良い人を見つける作業ではなく、渡せる形に業務を割る作業から始まります。効くのは専門性が要り、他工程との依存が少ない工程で、社内調整と事業をやると決める判断は渡せません。渡す単位は週の稼働時間で完結する大きさまで割り、初回は2〜4週間で終わるスコープに置きます。ここが決まらないまま人を探すと、範囲の定まらない仕事を週数時間の相手に渡すことになります。

探し方は民間4ルートと公的機関1ルートで、スキルで書ける条件かどうかが最初の分岐です。副業人材に固有の確認事項は本業先の許可・競業避止・秘密保持・知財の4点で、購買規程と情シスの確認は募集より先に片づけます。法令の適用範囲と自社の該当義務は有資格者に確認してください。まず、何を確かめるために誰を入れるのかを1文で書くところから始めます。

会いたい相手の条件を相談する

テーマと論点は御社が持つ前提で、その論点を確かめるために会うべき相手の条件を一緒に言語化します。誰に何を聞けば次の判断が進むかまで決まっていれば、そこから対話の設定に入れます。

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