有限責任事業組合(LLP)とは|LLC・株式会社との違い

この記事は、ネクストイノベーションベース編集部の花田 海が書きました。

「二社で新サービスをつくりたい。ただ、合弁会社を設立するほど事業の見通しは固まっていない」。この場面で候補に挙がるのが、有限責任事業組合(LLP)です。

有限責任事業組合は、会社をつくらずに共同事業を進める選択肢です。しかし、簡単な業務提携契約の別名ではありません。組合員が何を持ち込み、誰が業務を担い、利益と損失をどう分け、知財を誰が使うかまで、契約で決めます。

この記事では、有限責任事業組合とは何かを、LLC(合同会社)・株式会社・LPSとの違い、共同事業で候補に残す条件、契約で決める六領域、運営開始までの七段階から整理します。

有限責任事業組合(LLP)とは何か

有限責任事業組合とは、二者以上の個人または法人が、有限責任で共同事業を営むために結ぶ組合契約です。英語名Limited Liability Partnershipの頭文字から、LLPと呼ばれます。株式会社や合同会社のような法人ではありません。

根拠法は、2005年に制定された「有限責任事業組合契約に関する法律」です。同法は、契約の効力発生、組合員の責任、業務執行、組合財産、登記などを定めています。

組合員は、出資額の範囲で責任を負うのが原則です。ただし、自ら締結した契約や不法行為など、個別の行為に伴う責任まで消えるわけではありません。有限責任という言葉だけで、すべての責任が限定されると考えないでください。

また、LLPは出資者と実行者を完全に分ける制度でもありません。組合員が共同事業の意思決定と業務執行に関わる前提で、役割と権限を契約に置きます。資金だけを出して運営を他者へ任せたい案件なら、別の形態から検討します。

成立に向けては、組合契約を作成し、各組合員が契約で定めた出資を履行したうえで登記します。契約書には、事業、名称、事務所、組合員、出資、契約の効力が生じる年月日、存続期間、解散事由などを落とし込みます。

税務上の特徴は構成員課税です。経済産業省「有限責任事業組合(LLP)制度について」は、LLPの損益を組合員に帰属させ、各組合員の段階で課税する仕組みを示しています。実際の所得区分、損失の扱い、申告方法は、組合員の属性や取引に応じて確認が必要です。

有限責任事業組合・LLC・株式会社の違い

比較の起点は法人格です。有限責任事業組合は組合契約に基づく組織、LLC(合同会社)と株式会社は会社法に基づく法人です。この差が、課税主体、契約名義、資金調達、退出方法へつながります。

LLCは、日本では合同会社を指します。英語の名称が似ていても、LLPとLLCは同じ制度ではありません。会社名義で契約や資産保有を継続したいのか、参加者が共同で動く期限付きの事業をつくりたいのかで候補を分けます。

比較項目

LLP(有限責任事業組合)

LLC(合同会社)

株式会社

法的な形

組合契約に基づく組織

会社法上の持分会社

会社法上の株式会社

法人格

持たない

持つ

持つ

参加者と業務

組合員が出資し、共同で業務を行う

社員が出資し、業務執行社員を定められる

株主が出資し、取締役等が経営する

課税の単位

損益を組合員に帰属させる構成員課税

法人に対して課税

法人に対して課税

利益・損失の配分

組合契約で定める。出資比率と異なる配分は合理性と税務確認が必要

定款等と会社法の枠内で定める

株式と会社法上の手続に基づく

設立と運営

組合契約、出資履行、登記。組合員間の運営合意が中心

定款、出資、設立登記。法人として継続運営

定款、出資、機関設計、設立登記。株主総会等を運営

契約・資産の名義

法人格がない前提で取引ごとに設計

会社名義を使える

会社名義を使える

資金調達

組合員の出資・追加負担を契約で設計

社員の出資・持分を用いる

株式発行や借入れを用いる

退出

脱退、解散、財産処理を契約と法令に沿って扱う

持分譲渡、退社、解散等

株式譲渡、M&A、解散等

会社名義で長期の雇用や許認可、設備保有、複数回の資金調達を行う事業なら、LLCや株式会社のほうが運用に合う場合があります。反対に、参加企業が自社の人員や技術を持ち込み、一定期間で成果を検証し、終了後の扱いまで先に決めたいなら、LLPを比較対象に入れる意味があります。

有限責任事業組合とLPSを混同しない

有限責任事業組合は、組合員が共同事業を営む仕組みです。一方、LPSは、無限責任組合員と有限責任組合員が投資事業を営む仕組みです。共同開発の実施形態を探しているのか、投資ファンドを組成したいのか、目的から分けます。

LPSの根拠法は、「投資事業有限責任組合契約に関する法律」です。実務では、業務を執行する無限責任組合員をGP、有限責任組合員をLPと呼びます。LLPの組合員が共同事業を行う構造とは、責任の置き方も中心となる活動も違います。

問い

LLP

LPS

中心となる活動

組合員による共同事業

投資事業

役割の置き方

組合員が業務へ関与

GPが業務を執行し、LPは有限責任で出資

典型的な検討場面

共同研究、共同サービス、複数社プロジェクト

VC・CVCファンドの組成、外部LPの受け入れ

最初に決める事項

事業範囲、分担、知財、損益、退出

投資方針、投資判断、GP権限、LP同意、期間

「複数社で資金を出すからLPS」「会社をつくらないからLLP」という選び方では足りません。商品を開発し顧客へ提供するなら事業運営の形、投資先を選び資金を運用するなら投資運営の形を比べます。

共創で有限責任事業組合が合う条件

有限責任事業組合を候補に残せるのは、複数の参加者が人員、技術、顧客接点を持ち寄り、共同で業務を行い、終了後の扱いまで契約時に決められる案件です。単独の法人名義が不可欠な事業や、出資者を増やし続ける事業では、優先候補になりにくい形です。

たとえば、共同研究の成果を試作品に移す、異業種二社が顧客基盤と技術を組み合わせて新サービスを検証する、複数の専門事業者が期限付きプロジェクトを運営する、といった場面です。ここでは、参加者ごとの出資額、作業、人材、設備、販売、知財を分けて合意できます。

ただし、LLPが「JVより軽い」とは限りません。会社を設立しない代わりに、組合員間の契約が運営の中心になります。外部契約の当事者、売上と費用の処理、従業員の所属、指揮命令、個人情報や営業秘密の管理を曖昧にすれば、日々の処理が止まります。

有限責任事業組合を候補に残しやすい案件

  • 参加者が二者以上おり、各者が共同事業の業務を実際に担う
  • 現金以外の人員、技術、設備、販売活動を誰が提供するか決められる
  • 期間、成果判定、脱退、解散、知財の利用を開始前に話し合える

LLC・株式会社・通常の契約を優先して比べる案件

  • 単独の法人名義で許認可、雇用、資産保有、長期契約を集約したい
  • 株式や持分を使って外部投資家を段階的に受け入れたい
  • 参加者の多くが資金提供だけを行い、日々の業務へ関与しない
  • 実施内容が限定され、業務提携契約や共同研究契約だけで目的を果たせる

合弁会社をつくる案と比較するなら、出資比率だけでなく、意思決定、追加資金、知財、意見が割れた場合の処理、退出を並べます。組織を先につくる前に、顧客課題と各社の役割を検証する余地も残してください。

有限責任事業組合契約で決める六領域

有限責任事業組合契約では、法定記載事項に加え、各組合員の業務、意思決定、資金、損益、知財、外部契約、脱退・解散を、一続きの運営ルールにします。契約書と実務分担のずれを残さないことが要点です。

LLP法が定める契約事項と業務執行の枠内で、事業担当者が決める条件と、専門家へ確認する論点を分けます。次の表は、共同事業で協議する項目を整理したものです。

契約領域

事業側で決める内容

専門家へ渡す論点

目的・範囲

顧客、商品、地域、期間、既存事業との境界

事業目的、競業制限、法令適合

出資・資源

金銭、人員、設備、技術、販路の提供時期と評価

出資の適法性、権利移転、未履行時の処理

業務・権限

日常業務、予算、価格、発注、重要事項の承認者

法定の業務執行、代理権、責任範囲

損益・資金

売上、共通費、人件費、追加負担、損益配分

会計処理、税務、申告、資金不足時の義務

知財・データ

持込知財、共同成果、利用目的、終了後の利用

権利帰属、出願、許諾、秘密・個人情報管理

加入・終了

加入、脱退、違反、解散、顧客・在庫・債権の処理

法定手続、残余財産、契約承継、紛争処理

全員一致を求める事項を広げすぎると、日常の変更まで止まります。反対に、多数決へ寄せすぎれば、少数側が提供した技術や顧客関係を守れません。対象事項、金額、回答期限、緊急時の例外まで決めます。

損益配分を出資割合と変える案、知財を共同所有する案、脱退後も利用を続ける案は、契約・会計・税務を分けて確認してください。一つの合意が、三領域で同じ扱いになるとは限りません。

有限責任事業組合を組成する七つの手順

有限責任事業組合の開始準備は、形態選定から月次運営までを一つの工程にします。出資と登記が終わっても、契約承認や会計記録が動かなければ共同事業は始まりません。

以下は、法令上の手続と事業運営の準備をつなぐための七段階です。

  1. 共同事業の仮説を固定する:顧客、提供価値、検証期間、各社が持ち込む資源、継続判断日を一枚にする
  2. 候補形態を比較する:業務提携のみ、LLP、LLC、株式会社による合弁を、法人格、名義、業務執行、資金、期間、退出で比べる
  3. 取引図と業務分担表をつくる:顧客、LLP、各組合員、委託先、従業員、知財権者の間で、契約・請求・支払い・データ・指揮命令がどう動くかを図示する
  4. 主要条件を事業側で合意する:出資、予算、権限、損益、知財、追加資金、加入・脱退、解散について、契約起案前の条件表を作る
  5. 専門家の確認を受ける:法令適合、契約、責任、登記、外部取引、知財、損益配分、会計・税務、各組合員側の処理を分けて確認する
  6. 契約締結・出資・登記を行う:必要書類、申請先、期限、権限者を確認し、法令と確認結果に沿って実行する
  7. 運営開始条件を確認する:口座、請求、支払い、会計記録、契約承認、情報管理、月次報告、会議体、変更履歴を動かす

初回会議を事業説明だけで終えてはいけません。予算内の発注を誰が承認するか、顧客との契約案を誰が確認するか、損益をいつ締めるか、議事録をどこに保管するかまで決めます。組合契約に書いた権限と、日々の申請経路が一致しているかを確かめてください。

まとめ|有限責任事業組合は会社をつくらない近道ではない

有限責任事業組合は、複数の組合員が有限責任で共同事業に関与し、権限、損益、知財、退出を組合契約で定める仕組みです。LLCや株式会社より簡単かではなく、参加者の実働と事業期間に合うかで選びます。

比較するときは、法人格の有無だけで結論を出しません。顧客との契約主体、参加者の業務、追加資金、損益処理、知財、脱退・解散後の移行まで並べます。投資ファンドをつくるならLPS、会社型のJVなら合弁会社の論点に切り替えてください。

最後に残すのは、契約案と取引図です。共同事業の当事者、契約、請求、支払い、データ、指揮命令を図示し、権限表と対応させます。これで、法務、税務、会計、労務、許認可の確認範囲を分けて渡せます。


無料相談を申し込む