投資契約書とは|CVC・事業会社出資で押さえる主要条項

この記事は、ネクストイノベーションベース編集部の花田 海が書きました。

「協業を深めるために出資します」。その方針だけを持って法務相談へ行くと、最初の質問で止まります。新株引受か既存株購入か、出資と同時に始める協業をどの契約で約束するのでしょうか。取引の形が決まらなければ、投資契約書は作れません。

CVC、事業部門、法務、発行会社、既存株主では、見ている条件が違います。出資額だけを共有しても、資金と株式の流れ、投資後の権利、協業の責任者までは伝わらないからです。

この記事では、CVC・事業会社がスタートアップへ出資する場面を想定し、投資契約書の役割と主要条項を、法務へ渡す前に事業担当者がそろえる事実として整理します。

投資契約書とは|出資実行の条件と約束を定める

投資契約書とは、誰がどの株式をいくらで取得し、どの条件がそろった時点で実行するかを定める契約です。投資判断の前提と、投資後に当事者が負う義務も文書にします。契約名が同じでも、取引構造によって当事者と条項は変わります。

まず見分けたいのが、新株発行と既存株式譲渡です。新株発行では発行会社へ資金が入り、既存株式の譲渡では原則として売主である既存株主へ対価が支払われます。両方を組み合わせる取引もあるため、「出資額」だけでは資金と株式の流れを説明できません。

会社法は、株式、種類株式、募集株式の発行などを定めています。ただし、法令・定款に沿った機関決定と、当事者間の投資契約は別のものです。

事業担当者は、次の4点を一枚に集めます。

  • 当事者と、新株発行・既存株式譲渡の別
  • 株式の種類、数、取得価額、払込日・譲渡日
  • 投資目的、資金使途、同時に始める協業の有無
  • 社内承認、契約締結、払い込み、株式取得の順序

これで、法務は必要な手続きと契約条件を判断しやすくなります。事業担当者が法律判断をするのではなく、その判断に必要な事実を欠かさず渡すための一枚です。

投資契約書・株主間契約・業務提携契約の違い

出資交渉では、投資契約書、株主間契約、業務提携契約という3つの文書が並ぶことがあります。ひとつを締結すれば残りが不要になるとは限りません。扱う目的が違うからです。

文書

中心となる目的

主に確認する事項

投資契約書

株式取得と出資実行の条件を確定する

株式・価格、前提条件、表明保証、誓約、実行手続き、違反時の対応

株主間契約

投資後の会社運営と株主間の関係を定める

情報共有、重要事項、役員、株式譲渡、将来の資本政策、契約終了

業務提携契約

共同開発・販売などの協業を運用する

業務範囲、担当、費用、成果物、知的財産、秘密情報、終了条件

複数の目的を一つの契約書へまとめる場合もあります。その場合も、契約名ではなく「どの条件が、どの文書に書かれているか」で役割を区別します。出資と協業の一方だけが延期・終了したとき、もう一方に何が起きるかも確認してください。

タームシートは、主要条件を一覧にする資料です。ただし、最終契約との関係や各項目の法的拘束力は文面によって異なります。「タームシートだから拘束されない」と決めつけず、秘密保持、独占交渉、費用負担を含む全文を、署名前に法務へ渡します。

投資契約書の主要条項|法務へ渡す事実をそろえる

契約書を1条ずつ読み始めると、事業側が答えるべき問いと、法務が判断する問いが混ざります。先に、取引条件、投資判断の前提、実行までの作業、投資後の義務、違反時の処理へ分けてください。

次の表は、事業担当者が法務へ渡す事実をそろえるための整理です。

条項群

契約で扱う内容

事業担当者が法務へ渡す事実

株式取得条件

株式の種類・数、取得価額、払い込み、取得方法

合意した条件、資本政策表、資金の行き先、日程

前提条件

出資実行までに満たす事項

社内承認、必要書類、他契約、許認可・届出の確認状況

表明保証

契約時点などの事実に関する確認

開示資料、例外事項、係争・債務・知財などの確認担当

誓約

契約前後に行う、または行わない事項

報告体制、資金使途、追加行為の承認、履行責任者

投資後の権利

情報提供、追加取得、協議・同意、役員などに関する条件

共有情報、頻度、閲覧者、意思決定への関与範囲

株式移動・終了

譲渡制限、優先取得、買い取り、契約終了に関する条件

保有方針、想定する移動場面、協業終了との関係

違反時の対応

補償、是正、解除などの取り扱い

想定損失、補償の上限・期間を検討する前提、他契約への影響

資本政策表では、出資前後の株主、株式数、種類、潜在株式を含む前提が契約案と一致しているかを確かめます。追加発行時の希薄化、追加取得、残余財産の分配、重要事項の同意、株式譲渡、補償については、発動場面、計算前提、例外、期限を法務・財務と照合します。

資料には版と作成日を残します。古い資本政策表を前提に契約案が作られると、株式数や持分比率の修正が後工程へ波及するためです。

種類株式を使う投資契約書で確認したいこと

会議で「優先株式だから普通株式より有利です」と説明されても、その呼び名だけでは権利内容を特定できません。定款、発行条件、投資契約書を並べ、経済的な条件、議決・同意、取得・転換・譲渡に関する条件を個別に確認します。

会社法108条1項は、剰余金の配当、残余財産の分配、議決権など、種類株式で異なる内容を定められる9つの事項を列挙しています。具体的な権利は、案件資料から確認が必要です。一般用語の説明を、そのまま目の前の案件へ当てはめてはいけません。

事業担当者は、少なくとも次の5つの問いを法務・財務へ渡します。

  • 投資家が受け取る経済的な優先条件は何か
  • 重要な意思決定に、種類株主の同意や別の手続きが必要か
  • 将来の資金調達で新たな株式を発行したとき、既存条件へどんな影響があるか
  • 株式の取得、転換、譲渡が起きる条件と手続きは何か
  • 売却、組織再編、清算などの場面で、誰がどの順序で何を受け取る想定か

CVC側では、投資条件と協業の実行条件も切り離します。株主として情報を受け取る条件と、事業部門が共同開発へ人員を出す約束は、同じ資料だけでは管理できません。

投資契約書の表明保証・誓約・クロージング条件

表明保証、誓約、クロージング条件は、同じ「守るべき条件」に見えても、対象と時点が異なります。一定時点の事実、当事者が行う・行わない行為、実行前に満たす事項という3つに分けると、担当者と証拠を割り当てやすくなります。

ただし、具体的な対象範囲と法的効果は契約文面によって変わります。用語の一般的な説明だけで判断せず、条文全体を法務へ渡してください。

表明保証は開示資料とセットで確認する

表明保証では、会社の権限、株式、財務、契約、知的財産、労務、紛争などが対象になることがあります。範囲は案件ごとに異なるため、各項目を誰が調べ、どの資料に基づき、例外をどこへ記録したかを一覧にします。

重要性や認識による限定、基準時点、開示事項、違反時の通知や補償は、個々の文言だけでは判断できません。開示資料と契約書を一組にして、法務に確認してもらいます。

誓約は社内の実行責任者へ割り当てる

定期報告、資金使途、重要事項の事前協議といった義務は、契約を締結しただけでは動きません。担当者と期限が社内業務へ移されなければ、履行状況を追えないからです。

義務、頻度、情報源、承認者、代替担当を一覧にします。「毎月報告する」と書かれているなら、誰がどの資料から作り、誰が確認し、担当者不在時に誰が代わるのかまで決めます。

クロージングを「署名日」と混同しない

署名日と、払い込みや株式取得の完了日は一致しない場合があります。契約書へ署名した日を案件の完了日として扱うと、その後に残った条件確認や書類更新が宙に浮きます。

条件確認、書類の受け渡し、払い込み、株式に関する記録の更新について、担当者、順序、完了を示す記録を時系列にします。その記録をどこに保管するかも、この段階で決めてください。

CVCの投資契約書では情報共有と協業を分ける

CVCが受け取った資料を、事業部門へそのまま転送してよいとは限りません。株主として受け取る情報、協業のために共有する情報、投資判断に使う情報では、目的も閲覧者も違います。

製品計画、顧客情報、価格、技術情報について、受領目的、閲覧者、社内共有先、保管場所、二次利用、削除時期を決めます。契約、秘密保持義務、社内規程に沿って、情報ごとの扱いを記録してください。

公正取引委員会と経済産業省は2022年3月31日に「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」を策定し、2026年2月19日に改正しました。事業連携と出資で問題となり得る事例や考え方を整理した資料であり、契約案だけでなく、交渉過程と運用を確認する際にも参照できます。

協業条件は、別紙や業務提携契約へ分けます。目的、担当、費用、知的財産、成果物、情報管理、中止条件を明らかにするためです。投資と協業を連動させるなら発動条件を示し、分けるなら一方の終了後に残る義務と窓口を決めます。

投資契約書レビューの進め方|事業担当者の5手順

契約案が届いてすぐ赤入れを始めると、「この条件は社内未確認なのか、相手と未合意なのか」が分からなくなります。投資契約書のレビューでは、案件の事実、合意状態、根拠資料、社内責任者を一つの場所へ集めるのが先です。

1.取引の全体像を一枚にする

当事者、資金、株式、契約書、社内承認を矢印でつなぎます。新株発行と既存株式譲渡が混在する場合は支払先を分け、業務提携契約の開始日と終了条件も並べます。

2.条件の合意状態を分ける

価格、株式数、情報共有、協業、将来の株式移動を、「合意済み」「相手と未合意」「社内未確認」に分けます。社内方針がない事項を、相手との交渉事項として処理してはいけません。

3.責任者と照合資料を付ける

資本政策、株式発行、契約、協業、情報管理について、項目ごとに確認部門と回答者を置きます。回答には、資本政策表、定款、取締役会などの承認資料、開示資料、協業計画のうち、実際に照合した資料名・版・作成日を添えます。

4.クロージング一覧を作る

承認、契約書、前提条件、提出書類、払い込み、株式に関する記録、社内外の連絡を時系列にします。各工程の完了を示す記録と保管場所まで決めれば、「署名済みだが払い込み前」という状態も見分けられます。

5.投資後の義務を業務へ移す

報告日、会議、資料作成者、承認者、相談先を、カレンダーと責任分担表へ反映します。協業の進捗確認と投資管理の報告は分け、それぞれの見直し日を置きます。

最終レビューでは、株式取得の当事者と条件、実行までの担当、投資判断の前提と例外、投資後の報告、協業終了時の扱い、契約違反や前提変更の連絡先を、一文ずつ説明できるか確かめます。

まとめ|投資契約書の前に投資と協業を分ける

投資契約書の準備で事業担当者が担うのは、法律判断ではありません。取引構造、投資判断の前提、協業条件、投資後の運用を事実として整理し、法務・財務・有資格者が判断できる状態にすることです。

投資契約書、株主間契約、業務提携契約は、扱う目的が異なります。種類株式は定款・発行条件・契約書を照合し、表明保証は開示資料と例外、誓約は実行責任者、クロージング条件は時系列で確認します。

CVCでは、株主として得た情報と、協業のために共有する情報を混ぜないことも欠かせません。投資と協業の一方が終わったとき、もう一方に残る義務と窓口まで先に決めます。

契約条件の判断、株式価値の算定、出資実行、法務・会計・税務は、自社の専門部門と有資格者へ渡します。一方、投資前後の協働工程、社外人材の探索条件、案件管理、社内の責任の切り分けが未整理なら、契約相談と切り分けて事業開発支援を検討できます。


無料相談を申し込む