仮説検証インタビュー|社外の人に会って判断が変わった企業の記録

この記事は、ネクストイノベーションベース編集部の花田 海が書きました。

企画の骨子はできています。市場規模も調べました。競合も並べました。それでも会議は3回続けて結論に至りません。理由ははっきりしていて、その場にいる全員が「たぶんそうだろう」で話しているからです。

仮説検証インタビューは、この膠着を壊すためにあります。止まっている論点は、たいてい一文で書けます。「この業務の担当者は、本当にこの作業を面倒だと思っているのか」。この一文に答えられる人は社内にいません。けれど社外には、その作業を毎日している人がいます。会いに行く先はそこです。

この記事では、会う相手の選び方から、社内の判断が動いたかどうかの見極め方までを整理します。

仮説検証インタビューとは|社内の議論では決着しない論点を社外に出す

仮説検証インタビューとは、事業仮説のうち「事実かどうかを確かめないと次に進めない部分」だけを取り出し、その事実を知っている社外の人に直接聞く面談を指します。市場調査やアンケートと違うのは、聞く相手が統計上のサンプルではなく、論点の当事者である個人だという点です。

新規事業で確かめるべきことは2種類あります。調べればわかること(市場規模、法規制、競合の公表情報)はデスクリサーチで足ります。調べても出てこないこと、つまり現場の担当者が何に時間を取られ、どんな自己流の手順で不便を回避し、既存の解決策をなぜ使わないのかは、一次情報にしか存在しません。

社内の顧客接点では代替できません。既存事業の営業が持つ顧客情報は貴重ですが、既存商材を買ってくれている顧客に偏ります。しかも取引先という関係のなかでは、都合の悪い話は出にくくなります。買わなかった人、検討すらしなかった人の理由は、既存の顧客接点からは構造的に取れないのです。

Spreadyの共創探索は、この「社内の接点では届かない相手」に会うための仕組みにあたります。事業テーマと会いたい人の条件を提示し、条件に合う社外の個人(コラボレーター)とのセッションを設定する形式です。

何が決まらずに止まっていたのか|論点を一文にする

仮説検証インタビューを始める企業の多くは、社内の議論が「やる・やらない」ではなく「そもそも前提が正しいのか」で止まっています。取材で最初に確かめるのも、この止まり方です。

この段階で起きがちなのは、論点を絞らないまま情報収集に入ることです。「市場のニーズを把握したい」という粒度で人に会うと、相手の話は面白いのに、聞き終わっても議論は前と同じ場所に戻ります。何が事実として増えたのかを説明できないからです。

論点を一文にする作業は地味で、ここを飛ばすと後工程が全部ぶれます。書き方の型は「◯◯という人が、△△という状況で、□□をしている(していない)」という、真偽が判定できる文にすること。「ニーズがあるか」は判定できませんが、「情報システム部門の担当者が、月末の集計作業を手作業でやっている」なら判定できます。

公開稿で取材先に確認するのは、次の項目です。事業テーマの概要を公開可能な粒度でどう書くか。止まっていた論点を社内でどう一文にまとめたか。その論点が生まれてから実施を決めるまでにどれだけ時間がかかったか。既存顧客への打診や外部調査会社といった別の手段を検討したなら、それを選ばなかった理由も聞きます。

「会いたい人」の要件定義がインタビューの成否を決める

会いたい人の要件定義とは、会う相手の条件を属性ではなく経験で記述する作業です。仮説検証インタビューの質は、当日の質問力よりも、この記述の精度で決まる部分が大きくなります。

属性で書くと条件は緩くなります。「製造業の情報システム部門の課長クラス」は具体的に見えますが、該当者は数多くいて、検討中の論点に関係する経験を持つ人はその一部にすぎません。会ってから「その業務は担当していない」と判明すれば、その1時間は戻ってきません。

経験で書くと絞れます。「直近1年以内に、部門をまたぐデータ集計の仕組みを内製か外注かで検討し、実際にどちらかを選んだ人」。この書き方なら、該当するかどうかを会う前に確認できます。判断した経験がある人は、判断の理由を語れます。語れる人にしか、検討過程は聞けません。

要件を記述するときは、次の4つを埋めると相手像がぶれにくくなります。

  1. 経験:何をした人か。過去形で、期間を区切って書く(「直近1年以内に〜した」)
  2. 立場:その経験のなかでどの役回りだったか。決めた人か、実行した人か、反対した人か
  3. 除外条件:会っても仮説検証にならない人を明示する(自社の既存顧客、同じ業界の同じ職種に偏りすぎる場合の上限など)
  4. 会う理由:この人から何を聞けたら、止まっている論点に決着がつくのか

4つ目を書けないなら、その相手には会う必要がありません。ここを空欄のまま人数だけ増やすと、面談の本数は積み上がるのに社内の議論は動かない、という状態になります。

反対の立場の人をあえて要件に入れるかどうかは、実務でよく割れるところです。推進したい仮説に賛同しそうな人だけを並べると、面談は気持ちよく終わりますが、検証にはなりません。過去に同種の取り組みを検討して見送った人を1〜2名入れると、見送りの理由という最も手に入りにくい情報が取れます。

公開稿では、取材先が実際に提出した条件文を公開可能な形に編集して載せます。条件を一度で決められたのか、途中で書き直したのか。書き直したなら変更の前後。会った人数と、役割や業界の分散。相手を選ぶ際に社内で議論になった点も聞きます。

セッション当日|何を聞き、何を聞かないか

当日にやることは、自社のアイデアを説明することではありません。相手の過去の行動を具体的に聞き出すことです。Rob Fitzpatrickは『The Mom Test』で、自分のアイデアの感想を尋ねると相手は気を遣って肯定的に答えるため、代わりに相手が実際にとった行動と、そこに費やした時間や金額を聞くべきだと述べています。

聞いてはいけない質問は形が決まっています。「こういうサービスがあったら使いますか」。この質問への肯定的な回答には、ほぼ情報がありません。使うと答えた人が実際にお金を払う確率は、その場では測れないからです。

代わりに聞くのは、過去に起きたことです。

  • その作業を、直近ではいつやりましたか
  • そのとき、何分かかりましたか
  • 面倒だと感じたとき、何か対処しましたか。しなかったなら、なぜですか
  • 似たツールを検討したことはありますか。導入しなかった理由は何でしたか
  • そのために、いくらまでなら払えると社内で話が出ましたか

過去形で聞くと、相手は思い出しながら話します。思い出した内容には、こちらが想定していなかった手順や、社内の力学が混ざります。仮説が崩れるとしたら、たいていこの雑談めいた部分からです。

時間配分も設計の対象になります。60分なら、自社の説明は冒頭5分以内に収めてください。長く説明するほど相手は「この人たちはこう言ってほしいのだろう」と推測して答えるようになり、確認したかった事実が取れなくなります。

記録は逐語で残します。その場で要約すると、要約した人の仮説が混ざるからです。後から効いてくるのは整理された結論ではなく、相手が使った言葉そのものであることが多いものです。「面倒」と言ったのか「怖い」と言ったのかで、解くべき問題は変わります。

意思決定はどこで動いたか

仮説検証インタビューが事業判断に効いたかどうかは、社内の議論の内容が実施前後で変わったかで判定します。結論が変わったかではありません。

判定の目安は3つあります。第一に、議論の主語が変わることです。「市場は」「ユーザーは」と話していた会議が、「先週会った◯◯の担当の人は」に変わったなら、一次情報が入っています。第二に、論点が入れ替わること。当初の論点に決着がつき、次の論点が立ったなら前進しています。第三に、やらない範囲が決まることです。全部やると言っていた状態から、この領域は当面やらないと言えるようになったなら、判断材料は増えています。

1本目で出た話は、その人固有の事情なのか、その職種に共通する事情なのかが区別できません。2本目、3本目で同じ話が出て、はじめて社内で共有できる事実になります。ひとつの論点に決着をつけるには複数回のセッションを重ねる前提で計画してください。

公開稿では、実施前に立てていた仮説と、実施後にどう修正したかを修正前後の記述でそろえます。想定と違っていた具体的な事実は、原文どおりか要約かを明記したうえで引用します。その事実を受けて社内の誰が何を決めたのか、会議体と時期も確認します。数値を載せる場合は、取得日、集計期間、測定方法をセットで併記し、成功を断定する表現は使いません。

経営層がこの種の一次情報をどう受け取るかは、担当者の実感とずれることがあります。

実施後の現況|進んだこと、まだ決まっていないこと

取材時点で、この取り組みがどこまで進んでいるかを記録します。

成果を断定しないのは、新規事業の評価に時間がかかるからです。半年後に有望に見えた事業が、その1年後に撤退している例は珍しくありません。逆に、当時は「材料が増えただけ」に見えた面談が、2年後の方向転換の起点になることもあります。取材時点で言えるのは、何が起きたかまでです。

公開稿に載せる現況は、次の形でそろえます。取材日と、その時点のフェーズ。インタビューを起点に着手した具体的な次の工程(実証実験、社内提案、体制づくりなど)。現時点で未確定の論点と、次に確かめようとしていること。継続して実施しているなら、その頻度。そして取材対応者が挙げる「やってよかった点」と「次はこう変える点」です。

自社で回すか支援を入れるかは、社内に検証経験者がいるかどうかで分かれる部分が大きくなります。

自社で再現するための手順

同じ進め方を自社で始める場合、着手時にやることは相手探しではなく論点の言語化です。順番は次のようになります。

  1. 止まっている論点を一文で書く。真偽が判定できる形にする。判定できない文になったら、まだ論点が絞れていない
  2. その一文に答えられる人を、経験で記述する。会う理由(何が聞ければ決着するか)を必ず併記する
  3. 賛同しそうにない人を要件に1〜2名入れる。見送った理由は、賛同者からは取れない
  4. 当日は過去の行動だけを聞き、逐語で記録する。自社の説明は冒頭5分。「使いますか」は聞かない
  5. 同じ話が複数人から出たかで、社内共有できる事実かを判定する。1本で結論を出さない
  6. 実施後、社内の議論の主語が変わったかを確認する。変わっていなければ、論点の設定に戻る

実務で最も飛ばされるのは1と3です。1を飛ばすと面談の本数だけが積み上がり、3を飛ばすと社内で通しやすい結論だけが集まります。

まとめ|インタビューが変えるのは結論ではなく論点

社外への仮説検証インタビューで動くのは、事業をやるかどうかの結論ではなく、社内で議論している論点のほうです。要点は5つあります。

  1. 仮説検証インタビューは、社内の情報では真偽が判定できない論点だけを取り出し、その当事者に直接聞く面談である。市場調査の代わりではない
  2. 質を決めるのは当日の質問力より、会いたい人の要件定義。属性ではなく「直近1年以内に◯◯を判断した人」という経験で書く
  3. 当日は過去の行動だけを聞く。「使いますか」への肯定的な回答には情報がない。自社の説明は冒頭5分に収める
  4. 効いたかどうかは、社内の議論の主語が「市場は」から「先週会った人は」に変わったかで判定する
  5. 1本では判断材料にならない。複数人から同じ話が出て、はじめて社内で共有できる事実になる

公開稿へ更新するときは、企業名、部署、発言、数値、現況を推測で補わず、取材先の確認を経た事実だけで各欄を埋めます。空欄が残るなら、それは追加取材で確かめるべき問いです。

資料を請求する